1999年11月 6日更新
タイトル・ロゴ第2部
これは千葉県浦安市に住む島袋 ひろ子(OL 25歳 仮名)が、一念発起しジャズ・ピアノを始め、上達していく物語である。
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第5話 目と目で通じ合う?
〜アイ・コンタクトの重要性〜
「ひろQ」の2回目の練習日。練習メニューは次の通りです。
  1. There Is No Greater Love (Bb Major ♪=135)
  2. Blue Minor (F minor ♪=160)
  3. F Blues (F Major ♪=150)
  4. Take The A Train (C Major ♪=165)
  5. Bye Bye Blackbird (F-Major ♪=140)
ひろ子: 前回、やり残した「There Is No Greater Love」からですね、博士!
五反田: 1曲目はいつものように普通にやろう。

サックスがテーマを採って、テナートランペットピアノベースとソロをやって、4バースあとテーマに戻ります。

エンディングはまたIII-VI-II-Vで伸ばして、終わるぞ。

ひろ子: 第3話の「I'll Close My Eyes」でやったのと同じですね。

え〜と、キーがFの時で「Am7-D7-Gm7-C7」だったから、キーがBbになると.....

五反田: Dm7-G7-Cm7-F7」じゃよ。
ひろ子: そうか、そうか。

もう一度、整理すると、本来は

とやるところを、最後のBbmaj7m7−Gに置き換えて、「Cm7-F7-Dm7-G7」を何回かやって、「Cm7-F7-Bbmaj7」で終わるんですね。

endingのばし

五反田: その通り! それじゃあ、やってみるぞ。リード・シートとマイナス・ワンを載せておこう。

There Is No Greater Loveを演奏する。
ひろ子: また、博士、エンディングで違うことやりましたね。
五反田: 今回はこんな風にやったんだっけな。

ひろ子: そういえば、この曲の「Dm7-G7」のG7は「第1部の第4話 アドリブしてみよう!」で教わった、「7というサウンド」と同じなんですよね。
五反田: おお、そうじゃ。よく勉強しておるな。キーがFなら7、キーがBbなら7じゃ。

このG7ではラbを使うのがツボじゃ。

ひろ子: でもその次の7のところで、フレーズが続かないんですよ。ついm7のつもりで弾いちゃうんです。
五反田: この7はさっきの7ほど、基本中の基本というわけではないが、よく使われるぞ。こんなフレーズがはまるかのう。

もう少し7にこだわったフレーズだとこんなのもアリじゃな。

7のようなコードは、一般的には曲の終止を延期(suspend)するために使われることが多いな。

とはいえ、別にm7のつもりで弾いても構わんのじゃ。10回のうち10回とも、m7でやるのはちとまずいが、4、5回はm7で弾いても大丈夫じゃよ。

そういえばこのC7は「Take The A Train」の7と同じ機能なんじゃよ。

Take The A Train

ひろ子: え? そうなんですか? なかなかとっさには判らないんですよ。何かいい方法はないんでしょうか?
五反田: 理論的に考える方法はあるし、ワシのお奨めの方法もあることにはある。

ただ、やっぱり基本は前後のサウンドを聴いて、動物的に反応するのがいい。

ひろ子: そんなこと、言わずに、その博士お奨めの方法っていうのを教えて下さいよ!
五反田: そのへんは第3部で説明しよう。理論を先に学ぶより、ある程度、経験を積んでから「後付け」で理論を勉強した方が理解が早いし、長い目で見れば早道なんじゃ。
ひろ子: ...そういうものなんでしょうか...
五反田: さあ、前回練習した曲をまたやってみよう。
「Blue Minor」,「Fのブルース」を演奏して、休憩時間。その時に...
ひろ子: 次は「Take The A Train」ですよね? 前回、ピアノ・ソロの終わり方が悪くて、セカンド・リフとの掛け合いに入りづらかったんですが、ああいうときはどうすればいいんでしょう?

さっきの「Blue Minor」でも、ピアノ・ソロからあとテーマに入るときに、みなさん、入りづらそうでしたし....

五反田: ひとつは明確に「これで自分のソロを終わります」と意識して、弾くことじゃ。「次のフレーズが浮かばない。じゃあ、ここで終わりにしよう!」なんてのはイカンぞう。

自分で自分のソロをコントロールして、「こうやって始めて、こう展開して、最後はこうして終わる」というビジョンというか、構想を持って演奏しなければならん。

ひろ子: 第1部の第4話の「アドリブしてみよう!」で出てきた話ですよね。わたしも一応、そのつもりで演奏しているんですが、それがみなさんには伝わらないみたいで。
五反田: それはそうじゃ、演奏で意志を伝えようなんぞ、10年早い! 弾こうとしたことの10分の1でも実際に演奏できれば一人前なんじゃから。

バンドで演奏するときに、これはジャズに限らないと思うが、特にジャズに於いてはメンバー同士のコミュニケーションというのが一番大切なんじゃ。

もちろん、自分が弾いた音だけで全てを伝えられればそれに越したことはないが、そんなのは幻想だと思って良い。

演奏中のコミュニケーションの取り方として、一番、手っ取り早いのは声に出して、例えば「次、バース行こう」とか言ってしまうことじゃ。

ひろ子: 演奏中に声を出しちゃっていいんですか?
五反田: 別に構わんだろう。モーニング着て、ラフマニノフを演奏してるんじゃないんだから。ジャズの場合、そういうアバウトなところがまた、「ジャズっぽい」もんじゃ。まあ、毎回、そればっかりじゃただの「へたっぴー」じゃがね。
ひろ子: そういえば博士が曲の最後にサックスを持ち上げて、おろすタイミングでみんなが合わせて曲を終わりますよね。あと、バースからテーマに戻る時に、博士が自分の頭を指差すのも、コミュニケーションの一つなんですね。
五反田: ボディ・アクションだな。さすがに頭を指さして「曲のアタマ」を表すなんてのは、アマチュアならではじゃろうが、サックスを持ち上げてリタルダントさせて、おろすタイミングで最後を合わせてフェルマータというのは、プロの現場でも良く目にする光景じゃ。

また、ウェザー・リポートでもジョー・ザビヌルが手を挙げて曲の終わりを指示したり、ハービー・ハンコックは椅子に座った体勢から腰を浮かすことで合図しておった。

ひろ子: じゃあ、わたしもピアノ・ソロの終わりで腰を浮かせましょうか?
五反田: いやいや、まあ、それもいいじゃろうが(笑)、「」、「ボディ・アクション」と同じくらい有効なコミュニケーションの手段として「アイ・コンタクト」というのがある。
ひろ子: 「目で合図」っていうことですね。
五反田: サッカーでパスを出そうとするときに「お前にパスを出すから走れ!」と目で合図したり、フリー・キックの時にパスをもらう方から逆に「オレによこせ!」と目で訴えたりするのと同じことじゃ。
ひろ子: 「目は口ほどに物を言う」と言いますからね。
五反田: その通りじゃ。「ソロを終わります」なんてのは、顔を上げてちらっとみんなの方を見れば簡単に伝わる。

また、「今、どこを演奏してるのか分からなくなっちゃった」なんてことも、その人の顔を見ていればなんとなく分かるものなんじゃよ。

ひろ子: 演奏中、楽譜と鍵盤ばっかり見てるんじゃ、駄目なんですね。
五反田: それじゃあ、「Take The A Train」から練習再開じゃ。

ひろ子ちゃんのアイ・コンタクトを合図に「ピアノ・ソロ」から「リフとの掛け合い」に進もう。(第2部第4話参照

「Take The A Train」を演奏する
ひろ子: 今回はスムーズに「リフとの掛け合い」に入れました。アイ・コンタクトの威力は凄いです!
五反田: じゃあ、もう1曲、アイ・コンタクトの練習に「Bye Bye Blackbird」を練習しよう。
ひろ子: マイルズ・デイビスが「'Round About Midnight」や「Black Hawk」で演ってた曲ですね。
五反田: これを題材に「ブレイク&ピックアップ・ソロ」の練習をしよう。
ひろ子: 「ブレイク」っていうのは、一瞬、全員が演奏を止めることですよね。
五反田: そうそう、普通はテーマから最初のソロが始まるところでブレイクすることが多い。こんな風にじゃ。

このブレイクしたところから無伴奏で演奏するのを「ピックアップ・ソロ」もしくは「ソロをピックアップして始める」と言うんじゃ。

ひろ子: チャーリー・パーカーの「Famous Alto Break」というのも、ピックアップ・ソロなんですね。
五反田: あれは「チュニジアの夜」という曲のテーマが終わった後のブレイクでのピックアップじゃな。ピックアップは2小節ぐらいが普通なんじゃが、あの曲は4小節もあるんじゃ。そういう意味では聴かせどころであるし、演奏する方としては腕の見せ所であるわけじゃ。
ひろ子: でもそれじゃあ、最初にソロをとる人だけがピックアップすることになりますね。
五反田: そこでじゃ、その「ブレイク&ピックアップ」をソロが交代するたびにやるんじゃ。
ひろ子: え? どういうことですか?
五反田: もっと詳しく説明しよう。テーマから最初のソロであるトランペット・ソロに移るのは、よくあるパターンということでさっき説明した通りだからいいね。

トランペットから2番目のテナー・ソロへ移る時にもブレイクして、テナーがピックアップするんじゃ。

同様にテナーからピアノへ行くときも「ブレイク&ピックアップ」するんじゃ。

ひろ子: ピアノからベース・ソロへ行くときはどうしましょう?
五反田: せっかくだからそこもやってみよう。

ちょっとゴメスっぽかったかなついでじゃから、ベース・ソロから4バースに移るところもブレイク&ピックアップでいこう。

ひろ子: 全員がピックアップ・ソロを体験するわけですね。しかもそのたびにブレイクするから、バッキングする方も気が抜けないですね。
五反田: そうじゃ。そして「ソロを終わるからね」というアイ・コンタクトも全員がしなければならん。
ひろ子: こういう「ブレイク&ピックアップ」という手法は一般的なんですか?
五反田: 極めて一般的と言っていいじゃろうな。特にマイルズ・デイビスはこれが大好きで、有名なプレステッジ4部作の中で思いつくだけでも「If I Were A Bell」、「I Could Write A Book」「飾りの着いた四輪馬車」、「Salt Peanuts」などでやっておる。

実はジョン・コルトレーンも大好きで「Summertime」や「But Not For Meで使っておる。「夜は千の目を持つ」ではソロの最中もご丁寧に毎コーラス、ブレイクしておったなあ。

青山: ブレイクは4ウラ、1アタマのどっちにしましょうか?
ひろ子: え? よんうらいちあたま、って何のことですか?
五反田: 4拍目のウラでブレイクするか、1拍目のアタマでブレイクするかということじゃよ。

最後から2小節目の1拍目のアタマでブレイクすると、こんな感じ。

最後から3小節目の4拍目のウラでブレイクすると、こんな感じ。

ひろ子: 「4ウラ」の方が鋭い感じがしますね。
五反田: まあ、そうじゃろうが、この曲は平和な方がいいんで、「1アタマ」でブレイクしましょう。なんでも、かんでも「ウラ、ウラというのも大人げないんでね。

そんなことより、ちゃんとピックアップすることじゃ。間違ってもこんな風に弾いちゃいかんぞ!

ひろ子: きゃあ〜、これは恥ずかしいですぅ〜。(-_-;) 

ところで博士、ブレイクの時はバッキングはどうすればいいんでしょう?

五反田: 何も弾かなくていいんじゃよ。いや、むしろ弾いちゃいかんのじゃ。ここはソロイストの「見せ場」であるわけで、それ以外の人が音を出すのは「邪魔」だと心得よ!
ひろ子: わ、わかりました...
五反田: じゃあ、やってみようか。テーマはトランペットで、ソロはトランペット、テナー、ピアノ、ベースの順で、4バース、あとテーマに行きましょう。
ひろ子: エンディングはまた、III-VI-II-Vで伸ばすんですか?
五反田: いや、今回はあっさりと終わってみよう。

ひろ子: 最後のコードがよくわかりませ〜ん。
五反田: これはエンディングなどでよく使われるコードで「G/F」というやつじゃ。一般に分数コードや二階建てコードなんて言われていて、二つのコードを同時に弾くパターンじゃ。
ひろ子: むずかしそう!
五反田: いやいや、実は簡単なんじゃ。というか、複雑なコードを分かりやすく表記したもの、と思ってもらっていい。サウンド的には「maj79 #11 13」なんじゃが、そんな風に書かれても、とっさには弾けんじゃろう? そこでパッと見てすぐ弾けるように「G/F」と表すんじゃ。

実際にここでは

と弾いている。

ひろ子: 本当に「Fコード」と「Gコード」を弾いてるんですね。
五反田: 「Fコード」は3度である「ラ」を省いておるが、「Gコード」はもろに「ソ・シ・レ」と弾いておる。

ところが見方を変えると「ソ」は「Fmaj7」の9thだし、「シ」は#11thだし、「レ」は13thであるわけじゃ。

ひろ子: (指折り数えながら)あ!、本当だ! 博士、「レ」は6thじゃなくって、13thになるんですか?
五反田: ん〜ん、むずかしいところと言うか、どっちでもいいんじゃが...(-_-;)

ここではペットが9thである「ソ」を、テナーがmajor7thである「ミ」を弾いていて、全体としては

というサウンドになっておるんじゃ。メジャー7thと6thは相容れないものなので、6thというより、13thのほうがいいかと思ってね。

まあいずれにしてもこうした複雑な和音をわかりやすく表す方法として、分数コードが使われるということを覚えておいて欲しい。

ひろ子: わかりました。それにしても色々な終わり方があるものですね。
五反田: ひとつづつ、パターンを勉強していこうじゃないか。じゃあ、行くよ。

少しずつバンドらしくなってきた「ひろQ」、練習後の反省会でさらなるバンド・サウンドを追求します。
つづく
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五反田博士のよくわかる解説

III-VI-II-V
前にも書いたが、ローマ数字で3-6-2-5と書いたつもり。III-Vから数えればIII-VI-II-Vだが、II-Vから数えればII-V-III-VI。ちなみにIII-V-II-Vは「循環コード」、II-V-III-VIは「逆循環」とも言う。
C7にこだわったフレーズ
賢明な方はすでにお気づきかと思うが、Cリディアン7thスケールなんて言われてるやつをベタで弾いている。#11であるファ#が生かせればいいわけで、CのコンディミやCのホールトーンなんかもアリじゃ。こういう場合は単純にスケールを駆け上がる・下るみたいなフレーズがはまることが多い。
ゴメスっぽい
ステップスの「Step By Step」中の「Uncle Bob」でエディ・ゴメスが弾いたベースのピックアップ・ソロ。わかるかなあ? わっかんねえだろうなあ。
If I Were A BellとI Could Write A Book
厳密に言えばこの2曲は通常のテーマのコード進行で何コーラスかソロを取った後に、II-V-III-VIで延々とソロを伸ばしておる。そう、ちょうどエンディングで曲の終わりを伸ばす要領で。この場合は実は2回のアイ・コンタクトが必要になる。1回目は通常のコード進行からII-V-III-VIへなだれこむ合図として。そしてもう一度はII-V-III-VIからブレイクするところ。結構、高度な技なんじゃ、これが。
コルトレーンのBut Not For Me
アルバム「My Favorite Things」の中の1曲。A−B−A−B構成のAをコルトレーン・チェンジに変えてしまったという曲。これもマイルスのIf I Were A Bellなんかと同じく、各人のソロの終わりをII-V-III-VIで伸ばしている。
なんでもかんでも「ウラウラ」
あえて名前を挙げて申し訳ないが、例えばカシオペアの曲を聴くと、わざとらしいくらい「ウラウラ」している。これはウラが苦手な人がそれを克服したのを自慢するためなのか、と思ってしまう。何度も言うけれど、ウラもオモテも同じように大切であり、同じように自由にコントロールすることこそ、重要なのである。
分数コード
もちろん、もっと複雑な分数コードもあるわけで、「複雑なテンションを簡単に表記する」分数コードだけではない。また、このような表記はコードのボイシングを限定させること効果もある。さらに「アッパー・ストラクチャ・トライアド」なんて言われてるものも基本的には同じものじゃ。

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