1999年 9月12日更新
タイトル・ロゴ第2部
これは千葉県浦安市に住む島袋 ひろ子(OL 25歳 仮名)が、一念発起しジャズ・ピアノを始め、上達していく物語である。
大目次 第二部目次 前の話へ 次の話へ MIDI index

第4話 さあ、練習だ! その2
〜テーマを唄う、セカンド・リフ〜
前回に引き続き、「ひろQ」の初練習日。2曲目まで練習したところで、早くも1時間経過。残り4曲をあと1時間で消化できるのか?

練習メニュー

  1. I'll Close My Eyes (F Major ♪=130)
  2. Blue Minor (F minor ♪=160)
  3. F-Blues (F Major ♪=140)
  4. Softly As In A Morning Sunrise (C minor ♪=120)
  5. Take The A Train (C Major ♪=165)
  6. There Is No Greater Love (Bb Major ♪=140)
ひろ子: 博士! もう1時間経ってしまいました。
五反田: 今回は初練習だからしょうがないかな。「FのBlues」と「There Is No Greater Love」はまたの機会に回すとして、ひろ子トリオの「Softly As In A Morning Sunrise」をやってみよう。
ひろ子: え〜!、私としてはソフトリーを次回に回して欲しかった...
五反田: この曲はひろ子くんがリーダーだから、曲の構成やソロの順番、その他の仕切りを全部、自分でやるんじゃぞ。
ひろ子: はい、わかりました。

それじゃあ、始めます。ソロはピアノ、ベースの順で。

青山: バースはどうします?
ひろ子: ベース・ソロの後、やります。
関: イントロはどうしましょう?
ひろ子: え? イントロ、イントロ...え〜と、無しでいいです。
関: こんなのでやってみましょうか?

ひろ子: あ!、それでお願いします。
青山: 最初はブラシで始めましょうか?
ひろ子: ブラシ? え〜、そうですね、ブラシでお願いします。
関: ピアノ・ソロの最初から4ビートにします? それともしばらく、2ビートでいきます?
青山: ブラシからスティックに持ち替えるタイミングはどうしましょう? ソロに入ってすぐにします? それとも....
ひろ子: 博士〜!(泣)
五反田: ハ、ハ、ハ、ハ! 何もみんなはひろ子くんをいじめてるわけじゃないぞ。なるべくひろ子くんの意向に沿った演奏をするために一生懸命なだけじゃ。
ひろ子: えー、それは判ってるんですけど。頭がパニックになっちゃって。
関: それじゃあ、青山さん、ひろ子ちゃんはまだ、そんなに長くソロをとれないから、ピアノ・ソロに入ったらすぐ、4ビートにして、スティックにしちゃいましょう。
五反田: さすが、関くん、頼りになるのう。
ひろ子: ありがとうございます。みなさん、こんな私のために...
五反田: そう思ったら、集中して演奏して、みんなの気持ちに応えることじゃ。
ひろ子: はい、がんばります! カウント、お願いします。
五反田: ひろ子くん、カウントは自分で出した方がいいぞ!
ひろ子: あ、はい。ワン、ツー、ワン、ツー、スリー...
五反田: それじゃ、速すぎない? 大丈夫? テンポは決めてあるのかね?
ひろ子: いえ、決めてなかったです。
五反田: テンポは大事な要素じゃよ。自分が一番気持ちよく演奏できるテンポを指定するんじゃ。そのためには自分でカウントを出すのが良い。

また、練習中はアドレナリンが分泌されてて、多少テンポが速くなりがちじゃ。出来れば前もって演奏するテンポを決めておいて、演奏するときはメトロノームなどでそのテンポを出しそれに従ってカウントを出すと良い。

ロック・バンドじゃないんだから、ドラマーがスティックを叩いてカウントを出すなんてのはちょっとね。

ひろ子: だから博士の練習メモにはテンポまで書いてあったんですね。私もこれからそうします。

今日は「I'll Close My Eyes」と同じ、♪=130で。

「Softly As In A Morning Sunrise」を演奏する。
ひろ子: ........
五反田: どうしたんじゃ? うつむいちゃって。
ひろ子: 上手くできなくて、みなさんに申し訳なくって。
五反田: そういう気持ちは大事じゃよ。上手く弾けないことを他人のせいにしたり、「もう、いいや」って投げ出したりする人もいるんじゃから。一緒に演奏している人たちに対して、尊敬と感謝の気持ちが大切なんじゃ!

ジャズは一人では演奏できないと言ってね。色々な考えを持った、性格の違う他人と演奏して、素晴らしい音楽が出来たときは最高じゃ。アメリカのミュージシャン達は誰かを誘って一緒に演奏するときに"Let's Get Together"と言うんじゃ。仕事を頼む時もそうじゃ。この、「一緒にやろうよ」という言葉の中に全て、音楽をやる意味が込められておるのじゃ!

あと、今日の演奏も録音しているが、練習が終わった後、必ずテープで自分の演奏を聴くこと。中には「自分の演奏なんて聴きたくない」という人もいるが、そういうのは最低じゃ。その人は自分でも聴きたくない演奏を、演奏中に他のメンバーに聴かしているわけじゃからね。

確かに自分の演奏は欠点がよく判る分だけ、聴くのはつらい。じゃが、よく聴いてみると意外に良いところも見つかるもんでな。次に演奏するときはその「良いところ」を伸ばしていけば良いんじゃ。

ひろ子: はい、私もテープを聴きます。
五反田: なんだか、「自己啓発セミナー」みたいな話になってしまったな。

もう少し、技術的な話もしよう。

ひろ子くんはテーマをこんな風に弾いておったね。

これは「1001(センイチ)」などに載ってるメロディのほとんどそのままじゃろ。

ひろ子: はい、そうです。
五反田: ジャズのスタンダードは多くの場合、もともとは歌詞があって、唄われていた曲が多いんじゃ。しかしそのメロディをそのまま楽器で演奏しても、ボーカルほどパワーというか説得力がないわけで、どうしても間が持てないんじゃ。
ひろ子: 私も弾いてて、スカスカな感じでした。
五反田: そこでちょっとメロディを崩したり、アーティキュレーションを工夫したりして、表情をつける必要が出てくるんじゃ。
ひろ子: でもメロディの崩し方もよくわからないし、一旦崩したら元に戻れなくなりそうで。
五反田: たとえば、こんな風にやってみるのはどうじゃ?

最初のAはほとんどストレートに弾いて、2回目のAでちょっと崩してみる。

ひろ子: 2回目のAはアウフタクトで入ってるんだ! あんまり崩し過ぎてもいけないんでしょうね。
五反田: さらに、サビではちょっとゴージャスに和音で弾いて盛り上げておいて、最後のAは再びシングル・トーンで落ち着いた感じにしてみる。ちょっと1コーラスやってみようか。

ひろ子: 「起承転結」があって、いいですね。こういうアイディアがとっさには浮かばなくて。どうすれば出来るようになるんでしょうか?
五反田: こういうのをマスターするのに一番良いのは、やっぱり、コピーじゃな。ソフトリーだったら例えば、Wynton KellyやSonny Clarkのピアノ・トリオの演奏があるが、そういうのをコピーして「テーマの唄い方」を勉強してみるといいじゃろう。

初めのうちはコピーしたまんま、弾いてみてもいいかもしれんよ。

ひろ子: 判りました、ちょっと勉強してみます。
五反田: さあ、それじゃあ、最後の曲、「Take The A Train」にいこうか。

これはピアノのイントロから始めるのが定番じゃ。

ひろ子: これですよね。

このイントロはピアノ一人で演奏するんですよね。

五反田: そうじゃ、ピアノが間違うと曲が始まらんぞ。
ひろ子: そんな、プレッシャーかけないでくださいよ〜。(^-^;
五反田: 構成はピアノのイントロからテーマ、トランペット・ソロ、テナー・サックス・ソロ、ピアノ・ソロにいって、ピアノ・ソロの最終コーラスでリフとの掛け合いを1コーラスやって、あとテーマに行きましょう。
ひろ子: 博士!、その「リフとの掛け合い」って、どういうものなんですか?
五反田: これも「Aトレイン」の定番なんじゃが、A−A−B−AのAの前半でこんなメロディをペットとサックスで演奏するんじゃ。

こういうメロディを2番目のテーマの意味で、「セカンド・リフ」と言ったりする。

このリフと掛け合いするような感じでピアノ・ソロを弾くんじゃ。こんな風に。

ひろ子: リフの最中はソロは弾かないんですか?
五反田: いや、いや、弾いて構わない。いろんなやり方があって、リフと無関係に弾き続けるのもアリじゃ。

Aが3回あるから、色々なバリエーションを組み合わせてみるのが良いじゃろう。

ひろ子: Bの部分は普通に弾くんですね。

ここはピアノ・ソロでやるのが普通なんですか?

五反田: いやいや、ビッグ・バンドなどではトランペットでやることが多いかもしれない。4バースの代わりにドラムスと掛け合いにしてもいいんじゃ。

いずれにしても、この掛け合いの部分は一番の盛り上がり場所じゃよ。それじゃあ、やってみるぞ。

ひろ子: は〜か〜せ〜〜!、すいません〜。セカンド・リフ、入りづらかったですかあ?
五反田: うん、ちょっとね。
ひろ子: 「次のコーラスから入って下さい!」というフレーズを弾いたつもりだったんですけど。
五反田: おい、おい! 超能力者じゃないんだから、ひろ子ちゃんのフレーズを聴いて、意志疎通するなんて不可能じゃよ。
ひろ子: じゃあ、ああいう場合はどうすればいいんでしょうか?
五反田: よし、それじゃ、次回は演奏中の意志疎通について、説明することにしよう。

今日の練習はこれまでじゃ。「まつ」に行って、次回の打ち合わせをしよう。

ようやく、初練習が終了。このあと、次回の練習の打ち合わせを兼ねて、飲み会に突入したのはもはや説明の必要もないのであった。
つづく
大目次 第二部目次 前の話へ 次の話へ MIDI index

五反田博士のよくわかる解説

カウントは自分で出す
ピアノなどはいいだろうが、サックスなどの管楽器奏者が自分でカウントを出すのは実はちょっと難しい。特にアウフタクトの曲などではカウントの最後が切れてしまう。前回の「Blue Minor」などは「ワン、ツー」までしか言えない。
ワン、ツー、ワン、ツー、スリー、フォー
カウントの声の表情というのも大事じゃ。例えばアップ・テンポの曲なら、「ゥン、ゥー、ゥン、ゥー、リー、フォァ」と元気良く声を出すし、スローな曲なら「ワ〜ン、トゥ〜」と優しくカウントを出す。カウントから曲は始まっておるのじゃ!
メトロノームなどでテンポを出し
わしの場合はカラオケ・データを入れたPowerBook2400をスタジオに持ち込み、KORG M1でカラオケを鳴らして「テンポ出し」をしておる。
ドラマーがスティックを叩いてカウントを出す
マイルスはペットをうつむいて構えたまま、足でいきなりカウントを出してたらしい。ん〜ん、なんて不親切な。
ジャズは一人で演奏できない
中村誠一さんのお言葉。"Let's Get Together"の話も誠一さんのお言葉じゃ。「ジャズ・テナー・サックスの技法(シンコー・ミュージック)」より。
メロディを崩す
よく日本人の「女性ジャズ・ボーカル」が何を勘違いしてるのか、一つの音程で、つまり例えばド、ド、ド、ドと唄ったり、演歌の中堅歌手が昔の自分のヒット曲をリズムを遅らせて唄ったりするのは、「崩す」の範囲を超えているのは言うまでもない。
崩し過ぎ
もちろんコルトレーンやリーブマンの徹底した「崩し過ぎ」は十分、「アリ」です。
Wynton KellyやSonny Clarkのピアノ・トリオの演奏
残念ながら個人的にはこれらは趣味ではない。だから参考になるかどうかは自信がない。

inserted by FC2 system