1999年 9月 5日更新
タイトル・ロゴ第2部
これは千葉県浦安市に住む島袋 ひろ子(OL 25歳 仮名)が、一念発起しジャズ・ピアノを始め、上達していく物語である。
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第3話 さあ、練習だ! その1
〜エンディング、キメ、ノリ〜
いよいよ、ひろ子のクインテット、「ひろQ」の初練習です。
ひろ子: 博士! こんにちは。ついに、初練習ですね。
五反田: おぉ、ひろ子くん、気合いが入ってるねえ。
ひろ子: それはもちろんです。そういえば、このあいだ博士からメールいただきましたけど...
五反田: こんなメールじゃったかな。
「ひろQ」の練習メニューが決まりましたので、お知らせします。

1.I'll Close My Eyes ♪=130 F-Major
 テーマ(サックス)−サックス−トランペット−ピアノ−ベース−バース−あとテーマ
 ごく普通に

2.Blue Minor ♪=168 F-minor
 テーマ−トランペット−サックス−ピアノ−テーマ
 テーマのみラテンで、ソロは4ビート

 ・・・・・

ひろ子: そうです、そうです。曲の構成とか、テンポ、ソロの順番などが全部書いてあって。

普通、こういうのを作るものなんですか?

五反田: いや、あんまり普通は作らないかもしれない。

ただ、わしらのような「社会人アマチュアバンド」では、学生バンドみたいに練習時間がいっぱいあるわけでなく、プロのようにみんなの飲み込みが早いわけでもないから、「ここ、どうしようか?」なんてやってると、あっという間に練習時間が過ぎてしまうじゃろ。だから、前もって決められることはある程度、決めておいた方がいいと思ってな。

ひろ子: ジャム・セッションなんかだと、次に誰がソロを取るんだろう? と顔見合わせたりしちゃいますものね。
そうこうしているうちに、メンバー全員が集合して、セッティングも終了しました。

本日のメニュー

  1. I'll Close My Eyes (F Major 四分音符=130)
  2. Blue Minor (F minor 四分音符=160)
  3. F-Blues (F Major 四分音符=140)
  4. Softly As In A Morning Sunrise (C minor 四分音符=120)
  5. Take The A Train (C Major 四分音符=165)
  6. There Is No Greater Love (Bb Major 四分音符=140)
五反田: さて、それじゃあ、「I'll Close My Eyes」から始めようか。

ごく普通にやろうかのう。テーマわしが、ソロはサックスペットピアノベースで、バースやって、あとテーマに戻るとしよう。

最後は「III-VI-II-Vで適当に伸ばして、終わるぞ。

ひろ子: 博士!、その「III-VI-II-V」って、どういうことですか?
五反田: III-VI-II-V」は3-6-2-5っていうんじゃが、ダイアトニック・コードの3番目、6番目、2番目、5番目を使った循環進行にするということじゃ。
ひろ子: (○▲◇XYZ...)
五反田: あ、すまん、すまん。まだ、このへんのことを教えていなかったんじゃな。キーがFなら「Am7-D7-Gm7-C7」とやって、曲の最後を伸ばすんじゃ。

実際にやってみよう。テーマの最後の4小節からやってみるぞ。

ひろ子: あ〜、なんとなく、わかりました。でも、ずーと、いつまでも続いて行くみたいで、いつ終わるのかが判らないです。
五反田: まあ、わしを見ていれば判るじゃろうて。それじゃあ、始めよう!
1曲目、「I'll Close My Eyes」を演奏する。
ひろ子: やっぱり、最後がよく判らなかったです。博士はさっきと違うことやるし....
五反田: そりゃ、そうじゃ。毎回、同じじゃつまらんじゃろう。今回はこんな風にやったんだけなあ。

ひろ子: それにしてはベースもドラムスも何となく合ってましたよ。私一人、外れてて、恥ずかしかったです。
五反田: まあ、わしらは付き合いが長いもんでな。「あ、うん」の呼吸というやつかな。まあ、わしのエンディングのパターンも限られておるので、みんなにすぐ「読まれる」というのが正解かな。
ひろ子: やっぱり、場数を踏むしかないんですかねえ...
2曲目、「Blue Minor」
五反田: さあ、次の「Blue Minor」に移ろうか。こういう曲はテーマのアンサンブルをきちっと合わせるのが肝心じゃ。最初はテンポを落としてテーマだけ、やってみよう。

ストップ、ストップ! ひろ子くん、ここのリズムを合わせることにしよう。

ひろ子: すいません、間違ってしまって....
五反田: いや、いや、「間違い」という程でもない。「見解の相違」程度のことじゃ。
ひろ子: こういうところは「リズムを合わせる」ものなんですか?
五反田: ん〜ん、まあケース・バイ・ケースじゃな。あんまりキシっと合わせちゃうと、逆に恥ずかしい場合もあって、適度にバラけてた方がジャズっぽい、なんていうこともあるんじゃ。

「ひろQ」は勉強バンドであるわけだから、ここは基本に立って「合わせる」ことにしよう。じゃあ、もういちど、ゆっくりテーマをやってみよう。

(もう一度、演奏する)

ひろ子: ゆっくりやると、気持ちに余裕が出て、ひとつひとつ確認しながら弾けますね。
五反田: そうじゃ、こうやってしっかりとディテールを把握した上で、徐々にテンポを上げていくんじゃ。

じゃあ、今度はちょっとテンポを上げてやってみよう。津国くん(何事かを目で合図)

津国: (了解、了解)
五反田:

何か気づかんかね? ひろ子くん。

ひろ子: わかりましたよ! 博士。第1部第5話で教わった「音が短い」ですよね。
五反田: その通り! 今はテンポが四分音符=160ぐらいだったからすぐ判ったが、これが四分音符=200程のテンポになるとなかなか判りづらい。

ひろ子: 本当ですね、さっきほどは気にならないです。
五反田: 実はこれが陥りやすい落とし穴なんじゃ。視覚的にわかりやすいように、以前も紹介した「シーケンサーのピアノ・ロール画面」でも見てみよう。

音が短い
音が短い
音が長い
音が長い
ひろ子: 上の「音が短い」は音と音の間隔が広くて、下の方はほとんど隙間がないです。
五反田: 音を短くすると結果的に次の音に移るまでの時間が長くなるじゃろう。この「次の音に移るまでの時間」が長ければ準備もできるし、心理的な余裕も生まれる。

ところが、音を長く伸ばすとその「次の音に移るまでの時間」が短くなり、テクニック的にも心理的にも厳しいわけじゃ。

これがまだ、テンポが遅いうちは「次の音に移るまでの時間」の絶対的長さが長いため、なんとか頑張れるが、テンポが速くなるとかなり大変になる。

ところがその大変な「音を伸ばす」ことを止めてしまうと、「次の音に移るまでの時間」が長くなって、結構速いテンポにも対応できたりするんじゃ。

さらにまずいことに、ある程度の早さになると「音が短い」ことが気付かれにくくなるというか、ごまかし切れるんじゃ。

ひろ子: ズル」するような感じですね。
五反田: そうだ、しかもこれはかなり魅力的なズルなんじゃ。いったん、この味を覚えてしまうと、まじめに「音を伸ばす」のがアホらしくなるほどな。

しかし、この悪魔のような誘惑を振り切ってこそ、ノリのいい音楽が演奏できるというもんじゃ。

ひろ子: 私の知ってる人で、まだあんまり上手ではないんですが、速いテンポが得意という人がいて、私は羨ましいなあと思ってましたが、そういうことなんでしょうか?
五反田: 一概には言えんだろうが、「音が短い」可能性が高いな。
ひろ子: 改めて「音を伸ばす」必要性が判りました。
五反田: ついでに言うと、この曲のようにラテン・ビートの場合、イーブンな8分音符を弾かなきゃ駄目なので、より厳しいんじゃ。これが4ビートだと多少、緩和される。

4ビートだと、どうしてもアタマの8分音符よりウラの8分音符の長さが短い。そのせいか、多少、技術的にも気持ちも楽になるのかな。

ひろ子: 同じテンポなら、4ビートの方が演奏しやすいということですか?
五反田: 結果的にそうなるということであって、決して間違って欲しくはないんじゃが、4ビートを「タッカ、タッカ」と弾こうとしないこと。これも「音を短くする」原因になるんじゃ。4ビートでも、なるべくイーブンな8分音符を弾くようにすることじゃ。

そういう意味でも4ビートの曲の合間に、ラテン・ビートなどの曲を入れて、イーブンな8分音符を意識して演奏することが、ついつい「タッカ、タッカ」の道に迷い込みそうになるのを防ぐことにもなるんじゃ。

ひろ子: さすが、博士! 選曲にも細かな心使い。
五反田: そういうことじゃ。さあ、通して演奏してみよう。

(通して演奏する)

ひろ子: 博士! すいません。ピアノ・ソロの終わり方が...
五反田: お〜、よく気が付いたな。ひろ子くんはこんな風に演奏しておったな。

この曲のようにテーマのメロディが「食って始まる場合には、どこでソロを終わるか、どこでブレイクするかが重要なんじゃ。こんな風に演奏するといいじゃろう。

ひろ子: バンドでやってみると、いろんなことが勉強になります。
五反田: それにしてもちょっと話が長くなったな。このへんで休憩して、続きは次の回にしよう。
ん〜ん、6曲中、まだ2曲。この調子じゃ、初練習はいつ終わるんじゃあ!
つづく
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五反田博士のよくわかる解説

こんなメール
実際、わしのバンドではこういうメールを練習前にメンバーに送っている。最近はwebで公開してしまうこともある。ただし、この通りに練習が進むのかは、また別な問題。
III-VI-II-V
本当はローマ数字で書きたかったじゃが、「機種依存文字」なので、アルファベットで代用した。ん? 待てよ、この場合はII-V-III-VIの逆循環の方が正しいのかな? まあ、一緒じゃな。細かいことは気にせんように。
場数を踏む
やはり経験に優ものなしというところか。セッションはいろんなパターンや演奏方法を学ぶ、実践的な学校なのだ。どんなに頭で判っていても、やってみるとその通りに行かないのが現実。でも「クソ度胸」をつけることが一番の勉強かもしれない。
テンポを落として
とにかくテンポを落として練習するのが大事じゃ。よく、「早くなきゃ、感じが掴めない」なんて言う者がおるが、これは「本当は判ってませ〜ん」と告白してるようなものじゃ。こういうメンバーが居た場合は体で覚えさせるか、とっととビークにするかじゃ。幸い、「ひろQ」にはそういうメンバーは居ない。(居たら居たで話的には面白くなるんじゃろうが)
キシっと合わせる
マンハッタン・ジャズ・クインテットだっけ? ああいうメンツだから思わず「キシっと合ってしまう」というのが本当かもしれないが、ちょっとダサダサではあったなあ。でも、ステップス、のちのステップス・アヘッドのガッドが居た頃はかなり、「キシキシ」ではあったが、相当にカッコよかった。これは曲の作りに大きく左右されるんじゃないかな?
速いテンポが得意
こういう人は実在する。そして得てしてゆっくりしたテンポで練習すると「早くなきゃ、感じが掴めない」と言う人が多い。バンドを組むときはこういう人種は避けた方がいい。一方、「テンポが速い曲は苦手です」と言う人の方が信用できる。こちらは練習しさえすれば上達するからだ。
食って始まる
専門用語では「アウフタクト」という。なぜか日本語では「弱起」などというが、これはどう考えても誤訳であり、イメージを正しく伝えていないので、このサイトでは使用禁止じゃ。大抵は半拍や1拍、「食う」ことが多いが、この曲のように3拍半も「食う」のもカッコいい。

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