1.曲の説明
Burton Lane(バートン・レイン)作曲のOn a Clear Day(オン・ア・クリア・ディ)、正式な曲名は「On a Clear Day You Can See Forever」は同名ミュージカルのタイトル曲として1965年に発表された楽曲です。1970年にはBarbra Streisand(バーブラ・ストライザンド)主演で映画化もされました。
On a Clear Day You Can See Forever |
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Barbra Streisand
Yves Montand
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Paramount Pictures, 1970 |
フィナーレ
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スタンダードと言える曲なので、ボーカル、楽器ともに演奏例は多くあります。黒本やReal Bookにも載っているので、ジャム・セッションで演奏されることも多いと思います。しかしながら、若干の問題があります。曲は、A(8)-B(8)-C(8)-D(10 or 12)の34小節もしくは36小節で1コーラスという構成です。Dに相当する最後を10小節にするか12小節にするかで分かれるわけです。
10小節の場合(Real Book2)
12小節の場合(Real Book3、黒本)
前述したバーブラ・ストライザンドは12小節で歌っています。
問題はジャズの場合、アドリブで何コーラスも同じコード進行で演奏するので、この10小節もしくは12小節が非常に邪魔になります。ところが黒本やReal Bookに忠実に演奏しようとすると、毎コーラス、この中途半端な小節数と決してアドリブしやすいとは言えないコード進行に対面することになるわけです。
さらに当たり前のことですが、この曲はジャズでアドリブを何コーラスも回すことを念頭に作られたわけではありません。であれば、ジャズで演奏する場合、原曲に忠実に演奏する必要はないと言えます。
さらにもっと言えば、上記Dの最後はコーダというかエンディングとして引き延ばしているニュアンスもあり、以下のようなメロディだったなら話は簡単なのに、と思うわけです。
8小節だと簡単なのに・・・
2.参考テイクの説明
今回の参考テイクは、ピアニストのWynton Kelly(ウィントン・ケリー)が1966年にピアノ・トリオで録音したアルバム。
テナー・サックスのHank Mobley(ハンク・モブレー)と共演した、1967年のライブ演奏から(元々は「Interpretations」というアルバム名でリリース)。
Live At The Left Bank Jazz Society Baltimore, 1967 / Wynton Kelly |
Personal |
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Wynton Kely (piano)
Hank Mobley (tenor sax)
Cecil McBee (bass)
Jimmy Cobb (drums)
1st Theme(10小節)
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"The Left Bank Jazz Society", "Famous Ballroom", Baltimore, MD, November 12, 1967 |
5ヶ月後の同じ場所でのライブ演奏。こちらはテナー・サックスのJoe Henderson(ジョー・ヘンダーソン)名義です。
さらに5ヶ月後、同じ場所でのライブ演奏。こちらはWynton Kelly名義でテナー・サックスのGeorge Colemn(ジョージ・コールマン)を迎えて。
In Concert / Wynton Kelly |
Personal |
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Wynton Kely (piano)
George Coleman (tenor sax)
Ron McClure (bass)
Jimmy Cobb (drums)
1st Theme(10小節)
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"The Left Bank Jazz Society", "Famous Ballroom", Baltimore, MD, September 22, 1968 |
最初のテーマを弾いていないジョーヘンのテイクを除き、テーマはピアノで演奏されています。問題のDは最初のテーマでは10小節(ピアノ・トリオ版だけ12小節)、ソロでは8小節、ラスト・テーマでは12小節で演奏しています。
ちなみに、キーは全てF(ヘ長調)。黒本やReal BookはG(ト長調)ですが、Gでやってる例はBill Evans(ビル・エヴァンス)の「Alone」くらいしか知らない。みなさん、他にご存じですか?ちなみにOscar Peterson(オスカー・ピーターソン)は「Girl Talk」でB♭で演奏しています。
3.どう演奏するか
Wynton Kellyのピアノ・トリオの演奏を元に、以下の前提でリード・シートを作りました。
- キーはE♭
- 最初のテーマは12小節
- ソロの間は8小節。つまり1コーラスは32小節となる。
- ラスト・テーマも12小節
イントロはどうやっても良いですが、例えばDの最後8小節をそのまま演奏してみても良いですね。
イントロ
A(8)-B(8)-C(8)-D(12)の36小節。
テーマ
この曲は大好きですが、特に好きなのは3小節目のB♭7。メロディーは13th、♯11thなので、正確に書くとB♭7+11 13ですかね。9小節目の半音違いやCの最後の3音など、無視しちゃう人も多いでしょうが、ぼくは重視しています。
ソロはA(8)-B(8)-C(8)-D(8)の32小節。
ちなみに黒本やReal BookではCのコード進行は以下のようになっています。
このG7-Gm7をWynton KellyはB♭maj7-G7にしていますので、これを採用しています。
3.いざ、セッションへ
ここまで読んで頂いた皆さまは、今回の演奏方法が理にかなっていることが理解できるでしょう。しかし、全員が理解できるワケではないので、相当、丁寧に事前説明が必要になります。この曲の特徴である、最後が伸びることすら知らない人とは一緒に出来ないかも知れません。メンバーを見てトライしてみて下さい。