1.この曲について
Arthur Altman(アーサー・アルトマン)作曲のスタンダード・ナンバー、「All Or Nothing At All(オール・オア・ナッシング・アット・オール)」を取り上げます。初出はFrank Sinatra(フランク・シナトラ)がHarry James(ハリー・ジェイムス)楽団と録音した1939年らしい(YouTube)。Billie Holiday(ビリー・ホリデイ)も同名アルバムで歌っています。
皆さんにはコルトレーン先生のこっちの方が馴染みがあるかも。
曲としてはA(16)-A'(16)-B(16)-A"(16)という、通常の歌モノの2倍の64小節。但し、A"は最後のメロディーとコードが違うので注意。コルトレーンはドラム・ソロに続き、ベースとピアノが加わり、以下のような印象的なイントロで始めます。
コルトレーンのイントロ
Am maj79とAm69前を交互に弾いてマイナー感を出しています。イントロのラテン・ビート感をそのままにA(16)-A'(16)と続け、B(16)でスウィング(4ビート)、A"(16)でラテン・ビートに戻ります。
コルトレーンはテーマ1コーラスの後、B(16)をテーマをフェイク、A"(16)でテーマに戻り、エンディングと演奏しています。コルトレーンのディスコグラフィーによるとこの曲には別テイクが一つあり、そちらはB(16)もラテン・ビートという違いはありますが、全体の構成は同じです。
2.参考テイク
上記コルトレーン・バージョンに若干、手を加えたのが、今回の参考テイク、Pharoah Sanders(ファラオ・サンダース)が1989年に録音した「Moon Child」というアルバムから。
コルトレーン・バージョンに似たイントロ4小節に続き、1コーラステーマを演奏し、テナー・ソロ、ピアノ・ソロを経て、ラスト・テーマの後、エンディングでフェード・アウトします。
3.コルトレーンとの相違点1(ビート構成)
コルトレーン・バージョンとの相違点の一つ目はビート構成。ファラオ・サンダースはAの後半9〜12小節を4ビートにして、13〜16小節はラテン・ビートに戻ります。ビートの変遷を図にするとこんな感じです。結構、頻繁にビートが変わります。
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コルトレーン |
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ファラオ・サンダース |
イントロ |
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ラテン・ビート |
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ラテン・ビート |
↓ |
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テーマA(前半8小節) |
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ラテン・ビート |
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ラテン・ビート |
テーマA(後半9〜12小節) |
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4ビート |
テーマA(後半13〜16小節) |
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ラテン・ビート |
↓ |
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テーマA'(前半8小節) |
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ラテン・ビート |
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ラテン・ビート |
テーマA'(後半9〜12小節) |
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4ビート |
テーマA'(後半13〜16小節) |
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ラテン・ビート |
↓ |
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テーマB |
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4ビート |
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4ビート |
↓ |
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テーマA"(前半8小節) |
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ラテン・ビート |
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ラテン・ビート |
テーマA"(後半9〜12小節) |
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4ビート |
テーマA"(後半13〜16小節) |
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ラテン・ビート |
ファラオ・サンダースはこのビート構成でソロも演奏しています。
4.コルトレーンとの相違点2(和音-コード進行)
一番大きなコード進行の相違は、実はイントロで明示されています。ファラオ・サンダースはこんな感じで演奏しているみたい。
ファラオ・サンダースのイントロ
Amを示す3度であるド(C)を弾いていないようです。結果的にE/A、D/Eというボイシングになっています。テーマのA、A'、A"でもそれは継続されます。
A、A'、A"の7〜8小節目のコードも違います。
コルトレーンのA前半8小節
Amの次がB♭7で、これはこの曲の一般的なコード進行のようです。対して、ファラオ・サンダースはAmの次をGmにしており、Am同様にD/G、C/Dというボイシングになっています。
ファラオ・サンダースのA前半8小節
ソロでもこのサウンドが維持されており、3度(ドやシ♭)を使っていないのでマイナーの感じはありません。
ファラオ・サンダースのソロ(1コーラス目のA')
Amのところでは、以下のようなペンタトニックを多用しています。これはDのペンタトニックをAから始めたものです。
Amのペンタトニック
次の大きなコード進行相違点はA、A'、A"の後半8小節。
コルトレーンは概ねこんなコード進行。
コルトレーンのA、A'後半8小節
対して、ファラオサンダースはこんなコード進行。
ファラオ・サンダースのA、A'前半8小節
サウンド上の明確な違いは、4小節目。コルトレーンのA79は次のDm7/Cに繋がるけれど、ファラオ・サンダースのE7は次のDm7に繋がらない。ん〜ん、疑問。
ちなみにA"だけはこんなコード進行。ここは次のAm7に繋げるE7+9になっており、納得。
コルトレーンのA"後半4小節
対して、ファラオサンダースはこんなコード進行。Am7-Fm7をFm7-B♭7に変えているだけで、違和感はない。
ファラオ・サンダースのA"後半4小節
他にもBの最後など、細かくコード進行を変えていますが、説明は割愛します。
5.いざ、セッションへ
以上を踏まえ、これをセッションで演奏してみましょう。
ぼくも実際に演奏してみましたが、結果は「もう一つ」という感じでした。アンサンブルはまあまあでしたが、ソロが難しかったです。やはり、A、A'、A"の3度を使わないフレージングがぎこちなくなってしまいました。また、A、A'、A"後半のスムーズではないコード進行がネックだったなあ。コード進行はコルトレーン・バージョンにした方が良いかもしれないです。
それでは、良きセッション・ライフを。