1.この曲について

Arthur Altman(アーサー・アルトマン)作曲のスタンダード・ナンバー、「All Or Nothing At All(オール・オア・ナッシング・アット・オール)」を取り上げます。初出はFrank Sinatra(フランク・シナトラ)Harry James(ハリー・ジェイムス)楽団と録音した1939年らしい(YouTube)。Billie Holiday(ビリー・ホリデイ)も同名アルバムで歌っています。

All Or Nothing At All / Billie Holiday Personal
Billie Holiday (vocal)
Harry "Sweets" Edison (trumpet)
Ben Webster (tenor sax)
ほか

YouTube
Los Angeles, CA, August 18, 1956

皆さんにはコルトレーン先生のこっちの方が馴染みがあるかも。

Ballads / John Coltrane Personal Score
John Coltrane (tenor sax)
McCoy Tyner (piano)
Jimmy Garrison (bass)
Elvin Jones (drums)

YouTube
Lead Sheet (C)
Lead Sheet(Bb)
Lead Sheet(Eb)
 
demo audio file
Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ, November 13, 1962

曲としてはA(16)-A'(16)-B(16)-A"(16)という、通常の歌モノの2倍の64小節。但し、A"は最後のメロディーとコードが違うので注意。コルトレーンはドラム・ソロに続き、ベースとピアノが加わり、以下のような印象的なイントロで始めます。

コルトレーンのイントロ

m maj79m69前を交互に弾いてマイナー感を出しています。イントロのラテン・ビート感をそのままにA(16)-A'(16)と続け、B(16)でスウィング(4ビート)、A"(16)でラテン・ビートに戻ります。

コルトレーンはテーマ1コーラスの後、B(16)をテーマをフェイク、A"(16)でテーマに戻り、エンディングと演奏しています。コルトレーンのディスコグラフィーによるとこの曲には別テイクが一つあり、そちらはB(16)もラテン・ビートという違いはありますが、全体の構成は同じです。

2.参考テイク

上記コルトレーン・バージョンに若干、手を加えたのが、今回の参考テイク、Pharoah Sanders(ファラオ・サンダース)が1989年に録音した「Moon Child」というアルバムから。

Moon Child / Pharoah Sanders Personal Score
Pharoah Sanders (tenor sax)
William Henderson (piano)
Stafford James (bass)
Eddie Moore (drums)
Cheikh Tidiane Fall (perc)

YouTube
Lead Sheet (C)
Lead Sheet(Bb)
Lead Sheet(Eb)
 
demo audio file
Paris, France, October 12 and 13, 1989

コルトレーン・バージョンに似たイントロ4小節に続き、1コーラステーマを演奏し、テナー・ソロ、ピアノ・ソロを経て、ラスト・テーマの後、エンディングでフェード・アウトします。

3.コルトレーンとの相違点1(ビート構成)

コルトレーン・バージョンとの相違点の一つ目はビート構成。ファラオ・サンダースはAの後半9〜12小節を4ビートにして、13〜16小節はラテン・ビートに戻ります。ビートの変遷を図にするとこんな感じです。結構、頻繁にビートが変わります。

   
コルトレーン
 
ファラオ・サンダース
イントロ
  ラテン・ビート   ラテン・ビート
       
テーマA(前半8小節)
  ラテン・ビート   ラテン・ビート
テーマA(後半9〜12小節)
    4ビート
テーマA(後半13〜16小節)
    ラテン・ビート
       
テーマA'(前半8小節)
  ラテン・ビート   ラテン・ビート
テーマA'(後半9〜12小節)
    4ビート
テーマA'(後半13〜16小節)
    ラテン・ビート
       
テーマB
  4ビート   4ビート
       
テーマA"(前半8小節)
  ラテン・ビート   ラテン・ビート
テーマA"(後半9〜12小節)
    4ビート
テーマA"(後半13〜16小節)
    ラテン・ビート

ファラオ・サンダースはこのビート構成でソロも演奏しています。

4.コルトレーンとの相違点2(和音-コード進行)

一番大きなコード進行の相違は、実はイントロで明示されています。ファラオ・サンダースはこんな感じで演奏しているみたい。

ファラオ・サンダースのイントロ

mを示す3度であるド(C)を弾いていないようです。結果的にE/AD/Eというボイシングになっています。テーマのA、A'、A"でもそれは継続されます。

A、A'、A"の7〜8小節目のコードも違います。

コルトレーンのA前半8小節

mの次がB♭7で、これはこの曲の一般的なコード進行のようです。対して、ファラオ・サンダースはmの次をmにしており、m同様にD/GC/Dというボイシングになっています。

ファラオ・サンダースのA前半8小節

ソロでもこのサウンドが維持されており、3度(ドやシ♭)を使っていないのでマイナーの感じはありません。

ファラオ・サンダースのソロ(1コーラス目のA')

mのところでは、以下のようなペンタトニックを多用しています。これはのペンタトニックをから始めたものです。

mのペンタトニック

次の大きなコード進行相違点はA、A'、A"の後半8小節。

コルトレーンは概ねこんなコード進行。

コルトレーンのA、A'後半8小節

対して、ファラオサンダースはこんなコード進行。

ファラオ・サンダースのA、A'前半8小節

サウンド上の明確な違いは、4小節目。コルトレーンの79は次のDm7/Cに繋がるけれど、ファラオ・サンダースのE7は次のDm7に繋がらない。ん〜ん、疑問。

ちなみにA"だけはこんなコード進行。ここは次のAm7に繋げるE7+9になっており、納得。

コルトレーンのA"後半4小節

対して、ファラオサンダースはこんなコード進行。Am7-Fm7Fm7-B♭7に変えているだけで、違和感はない。

ファラオ・サンダースのA"後半4小節

他にもBの最後など、細かくコード進行を変えていますが、説明は割愛します。

5.いざ、セッションへ

以上を踏まえ、これをセッションで演奏してみましょう。

ぼくも実際に演奏してみましたが、結果は「もう一つ」という感じでした。アンサンブルはまあまあでしたが、ソロが難しかったです。やはり、A、A'、A"の3度を使わないフレージングがぎこちなくなってしまいました。また、A、A'、A"後半のスムーズではないコード進行がネックだったなあ。コード進行はコルトレーン・バージョンにした方が良いかもしれないです。

それでは、良きセッション・ライフを。


Last Update 10/23/2022 14:38 inserted by FC2 system