1.参考テイクのアルバムついて
前にも取り上げた、Thelonious Monk(セロニアス・モンク)とColeman Hawkins(コールマン・ホーキンス)共作のI Mean You(アイ・ミーン・ユー)を再度、取り上げます。音源として、ぼくが持っているのはこのCD。
月刊雑誌「Jazz Life」で、1988年くらいから長らく連載していた「月刊・スタンダード」を執筆していたミュージシャンをメインに、以下のアルバムが制作されました。なんと、ゲストにマーク・ジョンソンとピーター・アースキンが参加しています。
そのパート2というか、未発表集みたいな感じで、8年後くらいにリリースされたのが、今回の「Tokyo Session」です。
と、ごちゃごちゃ説明しておいてナンなんですが、現在、入手は困難であろうと思います(2枚とも)。
2.参考テイクの特徴
参考テイクの特徴はズバリ!、ビート。ファンクというか8ビートというか、その中に16分音符も感じられて、若干シャッフルもしてるし・・・というビートです。実はこのアレンジは上記アルバムが初めて、というわけではなく、1990年前後のライブ・ハウス等で盛んに演奏されていました。今回のテイクは布川さんが演奏していますが、佐藤達哉さんや矢堀孝一さんが演奏したのを聞いたことがあります。
極端な良い方をすれば、以前に取り上げたマッコイとマイケル様の「I Mean You」が出る1995年まで、日本では「I Mean You」をこのように演奏する方が主流でした(あくまで個人の感想です)。
とはいえ、このアレンジの発祥が何なのか、ぼくは知りません。誰かご存じでしたら、ご教示願います。
3.参考テイクの構成
構成がやや複雑なので、最初に概観しておきましょう。
イントロ(4小節x4回) |
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全員合奏 |
↓ |
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テーマA-A' |
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キメキメ |
↓ |
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テーマB |
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8ビート |
↓ |
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テーマA" |
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A、A'と同様。 |
↓ |
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ギター・ソロ |
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A-A-B-Aを8ビートで |
↓ |
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ピアノ・ソロ |
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A-A-B-Aを8ビートで |
↓ |
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ドラムス・ソロ |
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イントロ前半2小節とドラムスのバースで |
↓ |
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中トロ(4小節x4回) |
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イントロと同じ |
↓ |
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テーマA-A' |
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前テーマと同じ |
↓ |
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テーマB |
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8ビート |
↓ |
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テーマA" |
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A、A'と同様。但し、最後の1小節クッて |
↓ |
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エンディング |
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イントロ・パターンを1回 |
4.全体のノリについて
曲全体を支配するノリについて、説明しておきましょう。冒頭に「若干シャッフル」してると書きましたが、「シャッフル」という用語は人によって解釈の幅が広くて、便利ですがやっかいな言葉です。
皆さんはご存じでしょうが、「シャッフル」というのは8分音符のオモテとウラの長さが1:1ではなく、オモテが長くウラが短いリズムのこと。人によってはハネるなんて言いますが、ちょっと違う。この長さの比がどれくらいかによって随分とニュアンスが変わってきます。便利な世の中になったもので、シーケンサーで実際に比較することが可能になりました。4分音符を24分割して、その比率を変えたものを表にします。是非、聴いてみて下さい。
比率 |
図 |
演奏する |
備考 |
12:12 (1:1) |
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いわゆるイーブン |
13:11 |
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ちょっとだけ |
14:10 (7:5) |
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丁度いいかも |
15:9 (5:3) |
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ちょっとハネ過ぎ |
16:8 (2:1) |
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3連の前2つと1つ |
これで見ると、14:10、約分すると7:5が良さげです。ところが、例えばBrecker BrothersのInside Outであれば、16:8、約分すると2:1が丁度良かったりします。これがシャッフルの難しいところ。
さて、セッションの現場で「7:5のシャッフルで」なんて言って、通じると思います?もちろん、通じないので、「軽〜くシャッフル」みたいに言って、みんなに伝えます。
5.イントロ
前フリが長くなってしまいました。 曲の構成に従って、順番に見ていきましょう。まずはイントロ。モンクで有名なイントロをモチーフに、全音上げて演奏します。ギター、ピアノ、ベースはユニゾンで、4回繰り返します。譜面上は3回リピート+1回という書き方になります。
イントロ

6.A-A’
3回登場するAはキメキメです。ストップ・モーションで、ピアノとベースはアクセントだけ弾きます。ドラムスには多少、遊んでもらいますが、キメを邪魔しない程度に弾きます。
ぼくの譜面は参考テイクでやや曖昧な4〜5小節目も明記しています。
A-A'

7.B
Bは普通の8ビート。
B

8.ドラムス・ソロ〜中トロ
8ビートによるソロが終わった後、ドラムス・ソロです。イントロの前半6拍のアンサンブルに乗って叩きまくってもらいます。バース(交換)というより、伴奏にかぶせてドラムス・ソロというイメージ。ぼくは「サンバ・ソングのように」と言っています。通じる人には通じます。
ドラムス・ソロ
ドラマーからの合図などをきっかけに(Cueで)、イントロに戻ります。ただ、イメージとしてはドラム・ソロの継続みたいにするのがいいでしょう。イントロより手数多めがいいです。
ドラムス・ソロの後のイントロ

9.エンディング
ラスト・テーマは前テーマと同じように演奏しますが、最後の1小節をクッてエンディングに入ります。エンディングはイントロ・パターンの変奏で、1回だけ。
エンディング

イントロと同じように4回繰り返す演奏も聴いたことがありますが、ちょっとしつこい気もするので、ここでは1回にしたんでしょうか。
10.いざ、セッションへ
さあ、これをジャム・セッションで演奏するのは相当、大変です。フュージョン系の素養の無い人には無理です。共演者がアマチュアの場合は、このアレンジを演奏したことがある人でないと厳しいでしょうね。ぼくがセッションで演奏した時は、参考テイクに参加していたドラマーを含む、プロの方々と演奏しました。
それでは、良きセッション・ライフを。