1.この曲について
ピアニスト兼作曲家のTadd Dameron(タッド・ダメロン)が作曲のバラードです。初録音は(たぶん)前にも紹介したコレ。
Tadd Dameronがコルトレーンのために作曲したと思われ、その証拠にタイトルが「Soul Train」じゃなくて「Soultrane」と、Coltraneの名前に引っかけています。似たようなタイトルでは、Tommy Flanagan(トミー・フラナガン)作曲の「Freight Trane(フライト・トレーン。恐るべしコルトレーン?)」、コルトレーン本人作曲の「Chasin' The Trane」、「Traneing In」があります。ちなみに、「Blue Train」は「Blue Trane」じゃなく、列車の方なのでお間違いなく。
有名な曲で、黒本2やReal Book 2にも掲載されているし、多くのテナー・サックス奏者が演奏しています。ちなみにコルトレーン本人の録音は上述のアルバムだけで、アルバム「Soultrane」には収録されていません。さらにちなみに、黒本では「SOUL TRANE」とブランクを挟んで記載されていますが、「Soultrane」が正解です。
セッションでバラードを演奏する機会は少ないと思いますが、と前にも書きましたが、普通に演奏するだけであれば、ここで取り上げる必要はありません。何か、ヒネリがあるわけです。
2.参考テイクについて
当時の日野元彦カルテットにテナーの山口真文を加えた2テナーのライブ・アルバムです。渡辺香津美22歳、清水靖晃20歳、靖晃さんはコレがレコード・デビューとなります。なお、「Soutrane」は山口真文の演奏で、清水靖晃は参加していません。コンサート主催者側がElvin Jonesのバンドに倣っての2テナーを要望した、ということで、この曲の元ネタはこちらのElvin Jonesのアルバムにあります。
Dave Liebman(デイブ・リーブマン)との2テナー時代のElvin Jonesバンドですが、テナーはSteve Grossman(スティーブ・グロスマン)の1ホーンです。なお、Wikipedia記載の「Recorded on September 26, 1969 (track 2,4,6) and July 12 (tracks 1,2,5)」は誤りです。「Mr. Jones」だけが「September 26, 1969」録音で、「New Breed」、「What's Up-That's It」が「July 12, 1972」録音、「Soultrane」、「One Native's Place」、「G.G.」が「July 13, 1972」録音です(by The Complete Blue Note Elvin Jones Sessions)。どうでもいいですが・・・・
グロスマンのお気に入りナンバーだったらしく、いろんなアルバムに入っています。
Way Out East Vol.2 / Steve Grossman |
Personal |
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Steve Grossman (tenor sax)
Juni Booth (bass)
Joe Chambers (drums) |
Studio 7, July 23/24, 1984 |
Katonah / Steve Grossman |
Personal |
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Steve Grossman (tenor sax)
本田 竹曠 (piano)
米木 康志 (bass)
吉田 正広 (ds) |
東京Avacoスタジオ 1986年2月4日 |
This Time The Dream's On Me /
Damon Brown |
Personal |
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Damon Brown (cornet)
Steve Grossman (tenor sax)
Robin Aspland (piano)
Mark Hodgson (bass)
Sebastian De Krom (drums) |
Red Gables Studio 2008 |
グロスマン・コレクション自慢になってしまいました。
3.参考テイクのキモ
前置きが長くなってしまいました。このテイクのキモはBの2段目。オリジナルと比べてみましょう。
オリジナル(by Tadd Dameron)

これを元彦さん達はこのように演奏しています。
流氷バージョン

フォルテッテッシモで半音上下しています。
もちろん、本家、エルビンもフォルテッテッシモで叩きまくります。このためにティンパニが入っているのかしら。コード楽器が入っていないので、詳しいコードは不明ですが・・・
エルヴィン・バージョン(Mr. Jones)
残りも軒並み載せちゃいましょう。
グロスマン・バージョン(Way Out East Vol.2)
グロスマン・バージョン(Katonah)
グロスマン・バージョン(Bouncing with Mr. A.T.)
グロスマン・バージョン(Do It)
グロスマン・バージョン(Damon Brown)
さすがにElvinほどは激しくないですね。それでも、基本的なアレンジはElvinに沿っています。
もう一つ、些細なことですが、オリジナルと流氷バージョンでは、1小節目のコードが違います。
オリジナル(by Tadd Dameron)

これを元彦さん達はこのように演奏しています。E♭maj7に続いて4度上のA♭7+11を挟んでいます。
流氷バージョン

これもElvin譲りなのかと確かめてみると、そうではないらしい。E♭maj7で1小節通しています。
エルヴィン・バージョン(Mr. Jones)
グロスマンを聞くと、A♭7+11を挟んでいました。
グロスマン・バージョン(Katonah)
A♭7+11の起源は誰なんだろう?まさか、日本発明?
4.いざ、セッションへ
以上を踏まえ、これをジャム・セッションで演奏してみましょう。「Bのキメはフォルテッテッテッシモでお願いします」と言っても、なかなか思うようにならないでしょう。なぜなら、ドラムスはブラシを持っているはずだから。ブラシでフォルテッテッテッシモが出せる人は余程の達人です。スティックの時は五月蠅く、ブラシの時は必要以上に静かになる、というのがアマチュア・ドラムあるあるですよね。
「1小節の2拍目のコードが違うよ」とか、偉そうに行ってくる人が居たら、「元彦さんのバンドで香津美さんが弾いています」と言い放ちましょう。こっちの方が遙に研究してるんだ!、と。それでは、良きセッション・ライフを。