1.この曲について

ピアニスト兼作曲家のTadd Dameron(タッド・ダメロン)が作曲のバラードです。初録音は(たぶん)前にも紹介したコレ。

Mating Call / Tadd Dameron Personal
Tadd Dameron (piano)
John Coltrane (tenor sax)
John Simmons (bass)
Philly Joe Jones (drums)

YouTube
Van Gelder Studio, Hackensack, NJ, November 30, 1956

Tadd Dameronがコルトレーンのために作曲したと思われ、その証拠にタイトルが「Soul Train」じゃなくて「Soultrane」と、Coltraneの名前に引っかけています。似たようなタイトルでは、Tommy Flanagan(トミー・フラナガン)作曲の「Freight Trane(フライト・トレーン。恐るべしコルトレーン?)」、コルトレーン本人作曲の「Chasin' The Trane」、「Traneing In」があります。ちなみに、「Blue Train」は「Blue Trane」じゃなく、列車の方なのでお間違いなく。

有名な曲で、黒本2やReal Book 2にも掲載されているし、多くのテナー・サックス奏者が演奏しています。ちなみにコルトレーン本人の録音は上述のアルバムだけで、アルバム「Soultrane」には収録されていません。さらにちなみに、黒本では「SOUL TRANE」とブランクを挟んで記載されていますが、「Soultrane」が正解です。

セッションでバラードを演奏する機会は少ないと思いますが、と前にも書きましたが、普通に演奏するだけであれば、ここで取り上げる必要はありません。何か、ヒネリがあるわけです。

2.参考テイクについて

流氷 / 日野 元彦 Personal Score
日野 元彦 (drums)
渡辺 香津美 (guitar)
清水 靖晃 (tenor sax)
井野 信義 (bass)
山口 真文 (tenor sax)
Lead Sheet (C)
Lead Sheet(Bb)
Lead Sheet(Eb)
北海道根室市民会館 1976年2月7日

当時の日野元彦カルテットにテナーの山口真文を加えた2テナーのライブ・アルバムです。渡辺香津美22歳、清水靖晃20歳、靖晃さんはコレがレコード・デビューとなります。なお、「Soutrane」は山口真文の演奏で、清水靖晃は参加していません。コンサート主催者側がElvin Jonesのバンドに倣っての2テナーを要望した、ということで、この曲の元ネタはこちらのElvin Jonesのアルバムにあります。

Mr. Jones / Elvin Jones Personal
Elvin Jones (drums)
Steve Grossman (tenor sax)
Gene Perla (bass)
Albert Duffy (timpani)
Frank Ippolito (percussions)
Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ, July 13, 1972

Dave Liebman(デイブ・リーブマン)との2テナー時代のElvin Jonesバンドですが、テナーはSteve Grossman(スティーブ・グロスマン)の1ホーンです。なお、Wikipedia記載の「Recorded on September 26, 1969 (track 2,4,6) and July 12 (tracks 1,2,5)」は誤りです。「Mr. Jones」だけが「September 26, 1969」録音で、「New Breed」、「What's Up-That's It」が「July 12, 1972」録音、「Soultrane」、「One Native's Place」、「G.G.」が「July 13, 1972」録音です(by The Complete Blue Note Elvin Jones Sessions)。どうでもいいですが・・・・

グロスマンのお気に入りナンバーだったらしく、いろんなアルバムに入っています。

Way Out East Vol.2 / Steve Grossman Personal
Steve Grossman (tenor sax)
Juni Booth (bass)
Joe Chambers (drums)
Studio 7, July 23/24, 1984
Katonah / Steve Grossman Personal
Steve Grossman (tenor sax)
本田 竹曠 (piano)
米木 康志 (bass)
吉田 正広 (ds)
東京Avacoスタジオ 1986年2月4日
Bouncing with Mr. A.T. /
Steve Grossman
Personal
Steve Grossman (tenor sax)
Tyler Mitchell (bass)
Art Taylor (drums)
Live At Louisiana Jazz Club in Genova (Italy) on October 23, 1989
Do It / Steve Grossman Personal
Steve Grossman (tenor sax)
Barry Harris (piano)
Reggie Johnson (bass)
Art Taylor (drums)
Studios Palais des Congrès on April 29th, 30th, 1991
This Time The Dream's On Me /
Damon Brown
Personal
Damon Brown (cornet)
Steve Grossman (tenor sax)
Robin Aspland (piano)
Mark Hodgson (bass)
Sebastian De Krom (drums)
Red Gables Studio 2008

グロスマン・コレクション自慢になってしまいました。

3.参考テイクのキモ

前置きが長くなってしまいました。このテイクのキモはBの2段目。オリジナルと比べてみましょう。

オリジナル(by Tadd Dameron)

これを元彦さん達はこのように演奏しています。

流氷バージョン

フォルテッテッシモで半音上下しています。

もちろん、本家、エルビンもフォルテッテッシモで叩きまくります。このためにティンパニが入っているのかしら。コード楽器が入っていないので、詳しいコードは不明ですが・・・

エルヴィン・バージョン(Mr. Jones)

残りも軒並み載せちゃいましょう。

グロスマン・バージョン(Way Out East Vol.2)
グロスマン・バージョン(Katonah)
グロスマン・バージョン(Bouncing with Mr. A.T.)
グロスマン・バージョン(Do It)
グロスマン・バージョン(Damon Brown)

さすがにElvinほどは激しくないですね。それでも、基本的なアレンジはElvinに沿っています。

もう一つ、些細なことですが、オリジナルと流氷バージョンでは、1小節目のコードが違います。

オリジナル(by Tadd Dameron)

これを元彦さん達はこのように演奏しています。E♭maj7に続いて4度上のA♭7+11を挟んでいます。

流氷バージョン

これもElvin譲りなのかと確かめてみると、そうではないらしい。E♭maj7で1小節通しています。

エルヴィン・バージョン(Mr. Jones)

グロスマンを聞くと、A♭7+11を挟んでいました。

グロスマン・バージョン(Katonah)

A♭7+11の起源は誰なんだろう?まさか、日本発明?

4.いざ、セッションへ

以上を踏まえ、これをジャム・セッションで演奏してみましょう。「Bのキメはフォルテッテッテッシモでお願いします」と言っても、なかなか思うようにならないでしょう。なぜなら、ドラムスはブラシを持っているはずだから。ブラシでフォルテッテッテッシモが出せる人は余程の達人です。スティックの時は五月蠅く、ブラシの時は必要以上に静かになる、というのがアマチュア・ドラムあるあるですよね。

「1小節の2拍目のコードが違うよ」とか、偉そうに行ってくる人が居たら、「元彦さんのバンドで香津美さんが弾いています」と言い放ちましょう。こっちの方が遙に研究してるんだ!、と。それでは、良きセッション・ライフを。


Last Update 01/03/2021 18:55 inserted by FC2 system