1.この曲について
ピアニストのThelonious Monk(セロニアス・モンク)とテナー・サックス奏者のColeman Hawkins(コールマン・ホーキンス)共作のI Mean You(アイ・ミーン・ユー)です。現在ではモンクの曲として知られていますし、ホーキンスがどの程度この曲に関わっていたのか定かではありませんが、この曲の初録音は1946年リリースのColeman HawkinsのSP盤のようです。ジャズの世界では知らない人は居ないだろうというような有名曲ですし、Real Bookや黒本にも載っているので、何を今さら、とお思いかも知れませんが、色々あるんですよ、これが。
曲としてはA(8)-A(8)-B(8)-A(8)の32小節ですが、イントロやヴァンプがあったり、テーマの最後が2拍足りなかったり、シカケやキメがあります。
モンクのディスコグラフィーによると、彼の初録音は1948年のMilt Jackson(ミルト・ジャクソン)を加えたカルテットでの演奏です。以下のジャケットで知られる再々編集盤で聞くことが出来ます。
モンクは自作曲を時代と共に変化させることが良くあり、アレンジや時にはメロディーさえ変えることもあり、この曲も例外ではありません。全体の雰囲気や構成は現在と同じですが、最初期のテーマにおけるAの処理は以下のようになっています。
1948年のアレンジ

黒本で「裏打ちするパターンも有り」と書いてあるのはこのアレンジを指すと思われます。セッションで5小節目にFを弾かれた時に、「何だ〜、また譜面間違いか!」と思いましたが、これを元にしているなら合っていましたね。
時代は進んで、1957年のGerry Mulligan(ジェリー・マリガン)との演奏では、裏打ちせずで普通に処理しています。
イントロから最初のAまでをモンクのピアノのリードで演奏し、2回目のAからサックスが参加します。キメとしては以下のように、2、3小節目に「ドン!」という感じでアクセントが付いています。
1957年のアレンジ

しかし、Real Book 1や黒本に書いてあるような、それ以降のキメはないし、2段目のコード進行もトニックのFにならないアドリブ時の進行と同じものとなっています。いったい、何の演奏を元に書いているんだろうか。ぼくは探せませんでした。
で、今回、参考テイクにするのはこちら。
復活インパルス・レーベルの第一弾として制作されたMcCoy Tyner(マッコイ・タイナー)がMichael Brecker(マイケル・ブレッカー)を迎えて録音したアルバムです。マッコイのディスコグラフィーによると、録音は4月12〜14日の3日連続で行われたとのこと。1996年の第38回グラミー賞で「Grammy Award for Best Jazz Instrumental Album, Individual or Group」とこれに収録されている「Impressions」でMichael Brecker(マイケル・ブレッカー)が「Best Jazz Instrumental Solo」を受賞しているという、名作です。
2.参考テイクについて
このテイクは、全体の構成はモンクに倣って、それぞれの処理を以下のように演奏しています。
イントロ(8) |
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ピアノの独奏 |
↓ |
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テーマA |
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イントロに引き続き、ピアノ独奏 |
↓ |
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テーマA' |
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テナー、ベース、ドラムスが加わり、裏打ちパターン |
↓ |
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テーマB |
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4ビート |
↓ |
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テーマA" |
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A'と同様。但し、最後の2拍の小節あり |
↓ |
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ヴァンプ |
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イントロを全員ユニゾンで |
↓ |
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テナー・サックス・ソロ |
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2コーラス |
↓ |
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ピアノ・ソロ |
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2コーラス |
↓ |
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ベース・ソロ |
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2コーラス |
↓ |
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8バース |
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2コーラス。ts-ds-p-dsの順で |
↓ |
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テーマA、A' |
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全員で裏打ちパターン |
↓ |
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テーマB |
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4ビート |
↓ |
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テーマA" |
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A'と同様。但し、最後の2拍の小節あり |
↓ |
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ヴァンプ |
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イントロを全員ユニゾンで |
ピアノ独奏で始めるところが特徴ですね。こんな感じです。譜面は7割くらいの精度と思って下さい。
ピアノ独奏
ピアノの独奏から始めるのは、セッションでは中々難しいかも知れません。リード・シートの方は普通に全員で演奏するように書きました。
ところで、黒本のBのメロディーが間違っているの、知ってました?コードが違うならまだ「見解の相違」と言える場合もあるけれど、メロディーが違っているのは許せない。正しくはこちら。
正しいメロディー

赤く囲ったところが、黒本では4小節前と同じになっています。 ちなみに、コピー元であるReal Book 1も同じです。さらに、ちなみに「Yes Or No」にもメロディーの間違いがあります。気をつけてね。
テナー奏者以外は関係ない話ですが、このテイクのテーマ、マイケル・ブレッカー様以外は絶対やらないだろう、という難しさです。Aの最初の音が、高いF(ファ)で、テナーだとフラジオじゃないと出ない音です。テーマの一番最初の音がフラジオだなんて、通常は回避するので、殆どのテナー奏者は1オクターブ下で演奏するでしょう。しかし、そうすると全体の印象が変わってしまい、このテイクのような鋭さが失われてしまうんですね。テナーの人に「こんな風にテーマを吹いて」などと軽はずみに言わないようお願いします。ちなみにソロの出だしもこの音です。なんてヤツだ〜!
当然のことながら、A"の最後の2/4拍子は、ソロでは4/4拍子になります。いいよね?
5.いざ、セッションへ
以上を踏まえ、これをジャム・セッションで演奏してみましょう。最初のピアノの独奏は敷居が高いです。このテイクを知らない人には厳しいかも。知っていても咄嗟に出来るかどうか。お願いするなら、「スライド・ピアノのような感じで」と言ってみると良いかもしれません。
あなたがテナー奏者なら、マイケル様のようにオクターブ上で勝負してみて下さい。トラウマになってしまうかも知れないけど。
それでは、良きセッション・ライフを。