1.曲と参考テイクの説明
Cole Porter(コール・ポーター)作曲のI Love You(アイ・ラブ・ユー)は、Real Bookや黒本にも載っており、ジャム・セッションでよく演奏される曲です。A(8)-A(8)-B(8)-A(8)の32小節で1コーラスの、普通の「唄モノ」です。それを何故、わざわざここで取り上げるのかというと、今回参考にするのがこのテイクだからです。
1957年8月16日録音のピアノレス・トリオによる演奏です。コルトレーンのディスコグラフィーによると、この年はThelonius Monk(セロニアス・モンク)との共演(Monk's Music, Thelonious Monk & John Coltrane他)、マル・ウォルドロンの「Mal 2」、ジョニー・グリフィンの「A Blowing Session」、さらには初リーダー作となる「Coltrane」のセッションを経て、これを録音しています。ちなみに、このあと、9月1日にはソニー・クラークの「Sonny's Crib」を、9月15日にはかの有名な「Blue Train」を(1日で!)録音します。
2.参考テイクのツボ
そんなコルトレーンの飛躍の年の演奏ですから、さぞかしカシムズのコード進行で演奏しているのかと思いきや、かなり普通です。変わっているのはイントロ。ドラムスのラテン・ビートとベースの2小節パターンを4小節やってから、コルトレーンが16小節吹きます。
ベースのパターン(ベースは1オクターブ高く書くのがお約束)
コルトレーンのイントロ(実音=コンサート・キーで)
コルトレーンの譜割りはザックリコピーなので、参考程度に。ピアノレス・トリオなので、コードはハッキリとしませんが、ベースが「C・G・Bb・A・G・D・C、G・D・D・C・G」と弾いているところから、C7と考えて良さそうです。もちろん三度を弾いていないので、メジャー(長調)かマイナー(短調)か不明ですし、C7sus4とするには、Fを弾いていません。敢えて言えば、Gm/Cという感じかしら。いずれにしてもコードは弾かない方が良いような気がします。
コルトレーンは、Cのコンディミ(Combination of Diminish)をスケール通りに上がり下がりしています。これなら真似出来そうですね。
テーマに入るとスウィング、しかも4ビートになります。スタンダードの場合、2ビートで始めることも多いですが、このテイクでは4ビートの方が良いような気がします。まあ、趣味の問題ですが。さらにコルトレーンは2回目のA(A')の5小節目からイントロと同じラテン・ビートにして、1小節ブレイクを挟んでスウィングに戻しています。ここまで同じアレンジにするかどうかはお好みで。
コルトレーンは最後の2小節でブレイクしてピックアップ・ソロを始めます。フロントの人間からすると、ピックアップの時には、しっかりとブレイクしてほしいもの。でも、しないよね〜、みんな(笑)。上手な人ほど、ちゃんとブレイクします。
ソロになったら、全部スウィング(4ビート)で良いと思います。
ラスト・テーマは最初のテーマと同じように演奏して、2小節クッてイントロのパターンでエンディングに入ります。
エンディング

最後はイントロ・パターンを何回も繰り返して(x times repeatと言います)、合図で終わっていると考えます。
3.いざ、セッションへ
以上を踏まえ、これをジャム・セッションで演奏してみましょう。大体のことはリード・シートに書いてありますが、説明なしでは演奏出来ません。ポイントは以下の通り。
- イントロとエンディングがあります。
- イントロとエンディングはラテンで、和音はナシで
- イントロで適当に吹くので、x times repeatである程度長めに
- 合図(キュー)でテーマへ
- テーマはスウィングで普通に
- (お好みで)A'の2段目をラテンにして、ブレイク
- ソロに入ったら、ずーっとスウィングで
- エンディングは2小節クッて入ります。
- エンディングもx times repeatで、合図で終わり
これを手短に伝えてから、演奏しましょう、大変ですが。「ラテン」と言っても色々あるので、「どんなラテン?」と聞かれたら「ドンガラタッタ、トッカ・トッカ〜」見たいなラテンと答えてみましょう。多分、通じます。大変ですが。
4.蛇足ですが・・・
コルトレーンのテーマ演奏をよく聴くと、2回目のAの3小節目まで、1オクターブ上で吹いています。その次から楽器の音域の都合からか、オクターブ下げて吹きますが、3回目のAで再び、オクターブ上で吹いています。ぼくもコルトレーン派テナーの一員なので(^_^;)、そのように吹きますが、オクターブ下にすると曲の印象が変わります。こんなことも意識してみると良いと思ます。
今回の参考曲はちょっと特殊でした。代わりにこちらはどうでしょうか。
こっちもラテンで始まりますが、ちょっとニュアンスは違います。ラテンのまま、A(8)-A(8)と進み、B(8)をストップ・モーションのようなキメにして、3回目のA(8)でまたラテンにしています。ソロに入ったら全部スウィングです。このアレンジも良いですね。