1.曲と参考テイクの説明

Frank Loesser(フランク・レッサー)作曲のOn A Slow Boat To China(オン・ア・スロー・ボート・トゥー・チャイナ)、正式な曲名は「(I'd Like to Get You on a) Slow Boat to China」みたいですが、ジャズでは「On A Slow Boat To China」もしくは「A Slow Boat To China」とクレジットされることが多いです。黒本には載っていませんが、Real Bookには載っています。A(8)-B(8)-A(8)-B(8)の32小節で1コーラスの、普通の「唄モノ」ですが、ジャム・セッションではあまり演奏されない曲です(ボーカルは別)。Real Bookのキーは何故かB♭(変ロ長調)。「おかしくねぇか?」とぼくが首をひねった理由は、「この曲の定番はこれだろ!」と思うからです。

with the Modern Jazz Quartet / Sonny Rollins Personal Score
with the Modern Jazz Quartet / Sonny Rollins
Sonny Rollins (tenor sax)
Kenny Drew (piano)
Percy Heath (bass)
Art Blakey (drums)

YouTube
Lead Sheet (C)
Lead Sheet (C) Original Melody
Lead Sheet(Bb)
Rollins' solo(Bb)
Lead Sheet(Eb)
midi file
demo audio file
 
Apex Studios, NYC, December 17, 1951

1951年12月17日録音のテナー+ピアノ・トリオによる演奏です。キーはE♭ロリンズのディスコグラフィーによると、ロリンズ21歳の、ほぼほぼ初リーダー・セッションで演奏した8曲の中の1曲だそうです。アルバム・タイトルは「Sonny Rollins With The Modern Jazz Quartet」ですが、この曲にはMJQは参加していません。もともとは「Sonny Rollins Quartet」としてリリースされた10インチLPに収録されており、それを後年、MJQと共演した1953年の演奏と合わせて12インチLPでリリースされた形が今日まで引き継がれていると思われます。ジャケットをよ〜く見てみると、Art BlakeyとKenny Drewと書かれています。Percy Heathの名前がありませんが、彼はMJQのメンバーなので、そちらに含まれているということでしょうか。こちらのキーはE♭(変ホ長調)。

もう一つ、有名どころを挙げるとすればこちらでしょうか。

Woodlore / Phil Woods Personal
Woodlore / Phill Woods
Phil Woods (alto sax)
John Williams (piano)
Teddy Kotick (bass)
Nick Stabulas (drums)
Van Gelder Studio, Hackensack, NJ, November 25, 1955

アルト・サックスのPhil Woods(フィル・ウッズ)による演奏で、こちらはキーがB♭(変ロ長調)です。あなたはロリンズとウッズのどちらを定番と考えますか? ちなみにチャーリー・パーカー先生もE♭(変ホ長調)で演奏しています。

ロリンズのテーマはかなりフェイクしているので、オリジナルのメロディーを載せておきます。

オリジナル(と思われる)メロディーを歌詞と共に
Original Melody

冒頭の1小節目は違うコードが書いてある下のような譜面もあるようですが、ジャズでは上の方が主流と思われます。

1小節目コードの別バージョン
Alternate Chord Progression

Aの1段目を「E♭-7-m7-7」から「E♭-dim7-m7-F♯dim7」のようにパッシング・ディミニッシュを使って半音進行にするのはよく知られた技。

実はこの曲に潜む罠は、ジャム・セッションの定番中の定番、「It Could Happen To You」に似てんじゃねぇ疑惑。疑惑どころか、殆ど一緒です。違うところを黄色く塗ってみました。

コード進行比較
Theme It Could Happen To You

Aの6小節目と1回目のBの2小節目が決定的違い。ここを間違うと違う曲になっちゃいます。ご注意を。

2.参考テイクのツボ

特にありません。ロリンズはテーマ1コーラスに続き、テナーソロ1コーラス、ピアノ・ソロを1コーラス、テナーとピアノの4小節交換を半コーラス演奏して、ラスト・テーマは後半の半コーラス、という都合4コーラスで終わっています。エンディングは4小節だけ伸ばして終わっています。

エンディング
Ending

3.いざ、セッションへ

以上を踏まえ、これをジャム・セッションで演奏してみましょう。♩=175〜180くらいの速めのテンポじゃないと雰囲気が変わるかも知れません。テーマから4ビート(2ビートではなく)にした方が良いと思います。テーマといえば馬鹿の一つ覚えみたいに2ビートで弾き始めるベーシストは恐ろしいほどいっぱい居ます。イントロなしで、いきなり始めるのがいいかも。

セッションではよくピアノがイントロを弾いてくれますが、実はぼくはあまり好きではありません。殆どの場合、テンポが変わってしまうからです。ましてや、ドラムスにカウントを任せることは絶対ありません。ほぼ間違いなく、テンポが速くなるからです。カウントは自分で出します。管楽器でカウントを出す場合、特にこの曲のようなアウフタクト(日本では弱起)で始まる時は、難しいとされています。ロリンズは2拍前から始めていますので、カウントを出そうとすると、「1・、2・、1、2」までしか出せません。声で出す場合は「1・、2・、1」にしないと、マウスピースを咥える時間がなくなります。まあ、マウスピースを咥えたまま、カウントを取っても良いので、皆さんもトライしてみて下さい。慣れるとそんなに難しくありません。


Last Update 01/03/2021 18:35 inserted by FC2 system