1.曲と参考テイクの説明
Frank Loesser(フランク・レッサー)作曲のOn A Slow Boat To China(オン・ア・スロー・ボート・トゥー・チャイナ)、正式な曲名は「(I'd Like to Get You on a) Slow Boat to China」みたいですが、ジャズでは「On A Slow Boat To China」もしくは「A Slow Boat To China」とクレジットされることが多いです。黒本には載っていませんが、Real Bookには載っています。A(8)-B(8)-A(8)-B(8)の32小節で1コーラスの、普通の「唄モノ」ですが、ジャム・セッションではあまり演奏されない曲です(ボーカルは別)。Real Bookのキーは何故かB♭(変ロ長調)。「おかしくねぇか?」とぼくが首をひねった理由は、「この曲の定番はこれだろ!」と思うからです。
1951年12月17日録音のテナー+ピアノ・トリオによる演奏です。キーはE♭。ロリンズのディスコグラフィーによると、ロリンズ21歳の、ほぼほぼ初リーダー・セッションで演奏した8曲の中の1曲だそうです。アルバム・タイトルは「Sonny Rollins With The Modern Jazz Quartet」ですが、この曲にはMJQは参加していません。もともとは「Sonny Rollins Quartet」としてリリースされた10インチLPに収録されており、それを後年、MJQと共演した1953年の演奏と合わせて12インチLPでリリースされた形が今日まで引き継がれていると思われます。ジャケットをよ〜く見てみると、Art BlakeyとKenny Drewと書かれています。Percy Heathの名前がありませんが、彼はMJQのメンバーなので、そちらに含まれているということでしょうか。こちらのキーはE♭(変ホ長調)。
もう一つ、有名どころを挙げるとすればこちらでしょうか。
アルト・サックスのPhil Woods(フィル・ウッズ)による演奏で、こちらはキーがB♭(変ロ長調)です。あなたはロリンズとウッズのどちらを定番と考えますか? ちなみにチャーリー・パーカー先生もE♭(変ホ長調)で演奏しています。
ロリンズのテーマはかなりフェイクしているので、オリジナルのメロディーを載せておきます。
オリジナル(と思われる)メロディーを歌詞と共に

冒頭の1小節目は違うコードが書いてある下のような譜面もあるようですが、ジャズでは上の方が主流と思われます。
1小節目コードの別バージョン

Aの1段目を「E♭-C7-Fm7-D7」から「E♭-Edim7-Fm7-F♯dim7」のようにパッシング・ディミニッシュを使って半音進行にするのはよく知られた技。
実はこの曲に潜む罠は、ジャム・セッションの定番中の定番、「It Could Happen To You」に似てんじゃねぇ疑惑。疑惑どころか、殆ど一緒です。違うところを黄色く塗ってみました。
コード進行比較
Aの6小節目と1回目のBの2小節目が決定的違い。ここを間違うと違う曲になっちゃいます。ご注意を。
2.参考テイクのツボ
特にありません。ロリンズはテーマ1コーラスに続き、テナーソロ1コーラス、ピアノ・ソロを1コーラス、テナーとピアノの4小節交換を半コーラス演奏して、ラスト・テーマは後半の半コーラス、という都合4コーラスで終わっています。エンディングは4小節だけ伸ばして終わっています。
エンディング

3.いざ、セッションへ
以上を踏まえ、これをジャム・セッションで演奏してみましょう。♩=175〜180くらいの速めのテンポじゃないと雰囲気が変わるかも知れません。テーマから4ビート(2ビートではなく)にした方が良いと思います。テーマといえば馬鹿の一つ覚えみたいに2ビートで弾き始めるベーシストは恐ろしいほどいっぱい居ます。イントロなしで、いきなり始めるのがいいかも。
セッションではよくピアノがイントロを弾いてくれますが、実はぼくはあまり好きではありません。殆どの場合、テンポが変わってしまうからです。ましてや、ドラムスにカウントを任せることは絶対ありません。ほぼ間違いなく、テンポが速くなるからです。カウントは自分で出します。管楽器でカウントを出す場合、特にこの曲のようなアウフタクト(日本では弱起)で始まる時は、難しいとされています。ロリンズは2拍前から始めていますので、カウントを出そうとすると、「1・、2・、1、2」までしか出せません。声で出す場合は「1・、2・、1」にしないと、マウスピースを咥える時間がなくなります。まあ、マウスピースを咥えたまま、カウントを取っても良いので、皆さんもトライしてみて下さい。慣れるとそんなに難しくありません。