Gilbert O'sullivan Clair score
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第5話:ギルバート・オサリバンの「クレア」

はじめに

「またまた、レアな曲を選ぶんだから! ギルバート・オサリバンを取り上げるんだったら「アローン・アゲイン」でしょう。何でクレアなわけ?」とおっしゃる声が聞こえてきそうじゃ。ん〜ん、確かにおっしゃるとおりなんじゃが、「アローン・アゲイン」は語り尽くされてるところもあるし、音楽的にも素直な、綺麗に説明のつく曲なのじゃ。その点、「クレア」はちょっとクセのある曲で、1回聞いたくらいでは細部に宿り給う音楽の秘密は解き明かせないのじゃ。その分、わしの語るところが多くなるとというわけ。

とはいってもギルバート・オサリバンを知らない人もおるじゃろうから、簡単に説明しておくと、1946年12月1日にアイルランド生まれというから、もう結構なお年ね。1972年に発売した「アローン アゲイン」がイギリス、アメリカ、日本などで大ヒット。特にアメリカでは全米6週連続NO1という、超大ヒットになった。

そんなギルバート・オサリバンの2曲目のヒットとなったのが、この「クレア」です。

構成

4小節のイントロに続き、7小節のA、8小節のA’、10小節のB、A’ーB、間奏のハーモニカ・ソロ、A”−Bとやって、エンディングです。譜面にはA−A’−Bを、MIDIにはフル・コーラスを収録してある。

ポイントその1

構成のところでも書いたが、小節数が何とも中途半端でしょ。それでいて聞いてる分には全く違和感がない、これはいったい何故なのじゃろうか?

音楽は4小節単位で構成されることが多い。何故なのかうまく説明は出来んが、経験的にみんな知っておるじゃろう。だから7小節とか10小節というのは、結構違和感がある。100歩譲って、2小節単位を認めてサビの10小節はヨシとしても、7小節ってのはネ!

Aを解析してみると、まあ、いろいろ考え方はあるじゃろうが、最初の1小節はなかったことにして、2小節目から曲が始まると考えるとどうじゃろう。4小節+2小節の6小節と、これも半端じゃが、最後の2小節は「食われた」と考えればいい。

まあ、その考えでA’を分析するとこっちが7小節になってしまうんじゃが...

ただ、コード進行的にはBm7-E7-C#m7-F#m7という4小節が一つのまとまりであることは事実。

つまり、最初のF#m7は「アウフタクト」で4度上のBm7から始まると考えるわけじゃ。キーがF#mなのにF#m7から始まらない、という技法は多くの曲で見られるが、曲を「いかにして普通に始めないか」というのは作曲する上での永遠のテーマだとわしは考えている。その意味で「アウフタクト」の使い方がポイントになるんじゃないかな。まあ、もはやアウフタクトと呼べなくなるかもしれんが...

ちなみに「アウフタクト」を日本語では弱起なんて言うが、これは明らかな誤訳だとわしは思っておる。「弱拍から始まる」って意味なんじゃろうが、じゃあ、「強拍から始まったら弱起ではないのか!」と言いたくなる。

厳密なアウフタクトの定義はよく知らんが、わしのサイトでは「4小節単位のくくりの手前から始まる」ぐらいの意味で使わせてもらう。

ポイントその2

サビの5小節目から4小節。ベースが「レ」から半音ずつ上昇してくるところ。実はこのポイントを説明するために右側の譜面とMIDIデータはオリジナルとは異なっている。本当のオリジナルは次の通り。

ギターなどのコード楽器でAのトライアドを鳴らして、低音のストリングスがレから半音ずつ上昇している。これはこれで面白いのだが、MIDIではイマイチ、サウンドしなかったのと説明上不都合があったので、勝手に変えてしまいました(^_^;)

まあ、こう書いた方がすっきりするでしょ。

2番目のD#m7-5は魅惑のハーフディミニッシュとも言えるし、パッシング・ディミニッシュの変形とも言える。エンディングではD#m7-5Dmaj7という逆の進行が聴ける。こちらは魅惑のハーフディミニッシュと言ってもいいかも。

まあ、呼び方なんかは何でもいいわけで、要はベースの半音進行がキモなのじゃ。

ポイントその3

この曲でわしが一番好きなのは実は中間部で聞かれるハーモニカ・ソロ。この転調具合が絶妙で、半音上に転調している。

バラードなどで半音上に転調して盛り上げる手法はよくあるが、クレアのようなミディアム・テンポの曲の楽器ソロで半音上というのは珍しい。盛り上げる半音上への転調ではなるべく自然に聞こえるように工夫するものだが、ここではむしろ「唐突に」転調することでサウンドをガラッと変える効果を生んでいる。

同じパターンの曲としてはカーペンターズの「Close To You」がある。バート・バカラックの名曲じゃが、この半音上への転調もとても印象的じゃった。

「Close To You」では半音上がったまま、曲が進行するが、「クレア」では半音下に戻る。半音上げるときは唐突だったが、戻るときはとても自然じゃ。Em7-5を経由して巧みにBbからDに転調して、DからF#m(A)にさりげなく戻る。うまく説明は出来ないが、見事じゃろう。

その他

細かいところではハーモニカ・ソロのあとのA”。

メロディもコード進行も変えている。面白いが、理論的で分かりやすいとも言える。

それ以上に、面白いのが、これ。実は今回、改めて聞き直して気が付いたのじゃ。

Aの後半に出てくるが、B/G#つまりG#ルートのBトライアドというコードは、理論的にうまく説明が出来ないが、実にいいスパイスになっている。昔聞いてたときは気づかなかったなあ。

もひとつ、ついでに言うとサビの最初の「Gdim」はF#7の代理コード。「7thの半音上のディミニッシュはフラット9th」という法則そのままじゃね。

最後に

これを書きながら、テレビを見てたら、CMで「クレア」が使われておった。ほれ、わしの選曲はマニアックじゃないじゃろう!

ギルバート・オサリバンは今も活動してるらしいが、やはり「過去の人」の感は否めない。「クレア」を聞くなら「Alone Again」なども入っているベスト盤がいいかも知れません。

みなさんももう一度、ギルバート・オサリバンを聞きましょう。

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