2001年 3月 6日更新
タイトル・ロゴ第3部
これは千葉県浦安市に住む島袋 ひろ子(OL 25歳 仮名)が、一念発起しジャズ・ピアノを始め、上達していく物語である。
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第3話 パブロフの犬になれ!
〜コードの機能とテンション〜
前回に引き続き、再びコード進行の話をしましょう。
ひろ子: 前回はコードとコードの間に働く力ということを説明していただきましたが、それはわかったとしても、聞いただけでコード進行がわかる、博士のような真似は出来ないんです。絶対音感があって、鳴ってる音が全部判れば別でしょうけれど....
五反田: 必ずしも絶対音感があるからといって、コード進行がわかるとは限らん。鳴ってる音全部がわかったとしても、それらがどういう関係にあり、なぜその音が鳴っているかがわからないと、コードというのはわからないかもしれない。

コード進行というのはある意味、音楽の全体の流れを抽象化した表現方法であるわけで、それを聞き取るのは耳ではなく、実は「頭」なんじゃ。

ひろ子: 「頭」ですかあ?
五反田: 「こう来たら、次はこう来るはずだ」という具合に、コードとコードの関係から類推していくんじゃ。

もちろん、どう考えても「何でじゃ!」という進行もあるわけで、その意外性がまた、気持ちいいんじゃが、意外なコード進行ばっかりじゃ音楽にならないから、大体の大枠は予想できるものじゃ。

ひろ子: その予想をどうやってするのかがわからないんです、博士!
五反田: そのためにはそれぞれのコードの役割やサウンドといったものを体系的に知っておくと便利じゃ。これまでいろんなコードについてバラバラに説明してきたが、この辺で整理してみようかのう。

ダイアトニック・コードについてはあえて説明する必要もないだろうから、前回も少し説明した「ノン・ダイアトニック・コード」について整理してみよう。

ひろ子: はい、是非、お願いしま〜す。
五反田: 中にはレアなコードもあるが、1度から半音ずつノン・ダイアトニック・コードを紹介しよう。

I7(1度7th)

bII7(フラット2度7th)

II7(2度7th)

bIIIdim(フラット3度ディミニッシュ)

IIIm7-5(3度マイナー7thフラッテド5th)

IVm7(4度マイナー7th)

#IVm7-5(シャープ4度マイナー7thフラッテド5th)

Vm7(5度マイナー7th)

#Vdim(シャープ5度ディミニッシュ)

VI7(6度7th)

bVII7(フラット7度7th)

VII7(7度7th)

I7(1度7th)

キーがハ長調ならC7。サブ・ドミナントへ5度進行するために使われる。ジャズではVm7II-V(ツー・ファイブ)にする事が多い。

bII7(フラット2度7th)

キーがハ長調ならDb7。ドミナント7thの代理コードとして使われる。半音上の7thから解決する、という考え方は非常に大事である。

II7(2度7th)

キーがハ長調ならD7。曲の終わりを延期したり、IIm7のバリエーションとして使われる。スコーンと抜けたような明るい雰囲気も持つ。

bIIIdim(♭3度ディミニッシュ)

キーがハ長調ならEbdim。そんなに頻繁に使われるわけではない。IIIm7から半音で下降してIIm7へ進行することが多い。

IIIm7-5(3度マイナー7thフラッテッド5th)

キーがハ長調ならEm7-5。ノン・ダイアトニック・コードというか、Em7のバリエーションと言ってもいい。Em7よりA7への引力が強い。

IVm7(4度マイナー7th)

キーがハ長調ならFm7。マイナー6thにすることも多い。サブ・ドミナント・マイナーとして胸キュン・サウンドを演出。

マイナー6thはドミナント7thの代理コードにもなる。

キーがハ長調ならFm7。マイナー6thにすることも多い。サブ・ドミナント・マイナーとして胸キュン・サウンドを演出。

#IVm7-5(シャープ4度マイナー7thフラッテド5th)

キーがハ長調ならF#m7-5V7II-V(ツー・ファイブ)にしてIIIm7に解決させるのはまあまあ常識的。意外と単独で使われることも多い。詳しくは第3部第8話で。

Vm7(5度マイナー7th)

キーがハ長調ならGm7I7と一緒にサブ・ドミナントへ解決するときに使われる。

#Vdim(シャープ5度ディミニッシュ)

キーがハ長調ならG#dim。ドミナント7thの代理コード。そのものズバリで使われることは少ないが、アドリブやバッキング上は重要。

VI7(6度7th)

キーがハ長調ならA7IIm7に進行するときに使われることが多い、もっともジャズっぽいコード。例はもはやお馴染みなので省略。

bVII7(フラット7度7th)

キーがハ長調ならBb7。ジャズではIVm7とのII-V(ツー・ファイブ)で使われる。例はIVm7を参照。

VII7(7度7th)

キーがハ長調ならB7。ジャズでは#IVm7-5とのII-V(ツー・ファイブ)としてIIIm7に解決するときに使われることはあるが、単独で使われることは殆どない。ポップスでもその例は極めて少ない。

ひろ子: 博士!、怒濤の攻撃でしたね〜。それにしてもいろんなノン・ダイアトニック・コードがあるものですね。とても憶え切れそうにありません。
五反田: これが全てというわけじゃないぞ。あくまでよく使われるものを中心に紹介しただけじゃ。

かといって、それを全部、憶えてもあまり意味はないじゃろう。初めのうちは非常によく使われるVI7(6度7th)、IVm7(4度マイナー7th)、II7(2度7th)あたりを体に染みこませておけば十分じゃ。それこそ、パブロフの犬のように条件反射的に反応することが出来れば、コード進行の予想も簡単になるじゃろうて。

ひろ子: さすがにアドリブの道は険しい(-_-;)....

ところで、博士!、さっきのノン・ダイアトニック・コードのいくつかが「ドミナント7thの代理コード」だ、と説明していましたが、それをもう少し詳しく教えてください。

五反田: ドミナント7th、つまり「V7」の代理コードとして、「bII7」「IVm6」「#Vdim」があるという言ったんじゃな。キーがC(ハ長調)で和音の構成音を確かめておこう。

ひろ子: G7」は「ソ・シ・レ・ファ」ですよね。「Db7」は「レb・ファ・ラb・シ」、「Fm6」は「ファ・ラb・ド・レ」、「G#dim」は「ソ#・シ・レ・ファ」です。

ん〜ん、似てるような似てないような。

五反田: 実はIVm6」だけは例外なんじゃが、それ以外の和音には「シ」と「ファ」が入っておるじゃろう。この「シ」と「ファ」は「G7」の3度と7度に当たる。7thコードの場合、この3度と7度という2つの音が非常に重要なんじゃ。逆に言うとこの2つさえ入っていれば同じような働きをするコードと言える。
ひろ子: なんかあんまりよくわかりませんが、そういうもんだと理解しておきましょう。

でも「シ」と「ファ」はいいですが、それ以外で、例えば「Db7」には「レb」とか「ラb」なんていう、ハ長調の音階にはない音が思いっきり入っていますよね? これって不協和音というか異質なサウンドがするんですが...

五反田: これこそ音楽のもう一つの魅力というか、技法の一種であるわけで、もともとの調性(トーナリティー)から離れた緊張感のある状態を作り出す効果があるんじゃ。

この辺のことを語りだすと、やっぱりテンションについて話さないといけないかなあ。

ひろ子: 待ってました、ついにテンションですね!
五反田: まあ、今日のところはさわりだけ説明しようか。第3部第1話でダイアトニック・スケールからダイアトニック・コードを作ったよね。あれを延長して考えるんじゃ。今度は2オクターブの音階で考えてみよう。

このスケール上の奇数音を4つ、1度・3度・5度・7度を積み上げたのがダイアトニック・コードじゃった。テンションとはその上、9度・11度・13度のことなんじゃ。

ひろ子: 15度・17度とかはないんですか?
五反田: 15度は1度と同じだし、17度は3度と同じというように繰り返しになるので、テンションは13度までしかない。

じゃあ「Cmaj7」のテンションから見ていこう。

9度(ナインス) 11度(イレブンス) 13度(サーティース)

ところが11thは1度(ルート)の4度上であり、同時に弾くと何のコードだか判らなくなってしまうので使われない。また13度は6度と同じ音であり、6度というのはジャズではあまり使われないが、ポップスなどでは普通の和音として扱われるので、テンションとは呼ばないんじゃ。

これは表記上の問題じゃが、メジャー7th・9thの場合は7thを省略して「Xmaj9」と書くのが一般的じゃ。

>ひろ子: ということは「Cmaj7」のテンションは9度だけということですかあ? 良かった、一つだけ憶えれば良いんですね。
五反田: いやいや、テンションには音階上にある音とその音を半音上げ・下げした音があるんじゃ。これを変更した(altered=オルタード)テンションという意味で「オルタード・テンション」と呼ぶ。

再び「Cmaj7」で考えていこう。

9th(レ)を半音下げたb9th(フラッテッド・ナインス)(レb)はルート(ド)と半音でぶつかってしまうので使わないし、半音上げた#9th(シャープド・ナインス)(レ#)は長調・短調を決める3度(ミ)と半音でぶつかってしまうので使わない。

b9thはルートと半音でぶつかる #9thは3度と半音でぶつかる
>ひろ子: よかったあ! オルタードの9thはナシですね。
五反田: 次は11th。11th(ファ)を半音下げると3度(ミ)と同じになるのでナシじゃが、半音上げた#11th(ファ#)はテンションじゃ。ついでに13thはフラット13thは響きが汚いのでなし、シャープド13thは7thと同じだからテンションとしてはナシじゃ。
b11thは3度と同じ テンション

b13thは汚い #13thは7度と同じ
ひろ子: 結局、メジャー7thのテンションは9th(ナインス)と#11th(シャープド・イレブンス)だけですね。

ふ〜っ、もうくたくた。

五反田: まだまだ序の口じゃ。それではここで問題。「Fmaj7」の9thと#11thを弾きなさい。
ひろ子: え〜っと、「ファ・ソ・ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ..」で9番目が「ソ」で11番目が「シ」だから、半音上げて...ん?、「ド」になって5度と同じ音になってしまいました。あれ、あれ?
五反田: ひろ子くんは今、ハ長調のドレミで数えたじゃろう? メジャー7thのテンションを数えるときはその音を1度にしたドレミで数えるんじゃ。「Fmaj7」だったらヘ長調のドレミで考えなくてはいけない。

9thは「ソ」で当たりじゃが、#11thは「シb」を半音上げた「シ」が正解じゃ。さあ、どんどん行こう。細かい説明は省略してテンションの数え方とテンションだけ紹介しよう。

次はマイナー7th。マイナー7thのテンションを考えるときはメロディック・マイナー・スケールを使う。「Am7」ならAのメロディック・マイナー、「Dm7」ならDのメロディック・マイナー、「Em7」ならEのメロディック・マイナーということじゃ。

ひろ子: メロディック・マイナー・スケールというのはナチュラル・マイナー・スケールの6度と7度を半音上げた音階ですよね。
五反田:

その通り。テンションは9thと11thの2つじゃ。

11thを和音で弾くときは3度を弾かないのが一般的じゃが、まれに3度も9thも一緒に弾くこともある。

テンションとは呼ばない6thもなかなか、良い響きじゃろう。マイナー6thを和音で弾く時は7thは弾かないのが定説じゃ。テンションとしては9thだけが使われる。というか、和音で弾くときは6thと9thを一緒に弾いた、シックス・ナインスというコードを使う。

さらにマイナー・メジャー7thというコードもある。これはメジャー・コードのメジャー7thと同様に、ルートと長7度の関係にある音のことじゃ。これも和音で弾くときには9thと一緒に弾くことが多い。

ひろ子: テンションの音だけじゃなく、どの音と一緒に弾くかもマスターしないといけないんですかあ?
五反田: そうじゃ。テンションは使うことに意味があるのではなく、テンションを使って変わったサウンド、調性から離れた、文字通り緊張感を出すのが目的なんだから、ボイシングに気を付けるのは当然のことなんじゃ。

さあ、最後は7thコードのテンションじゃ。始めに言っておくが7thコードには全てのテンションがある。

ひろ子: え〜!、全部というと9th・b9th・#9th・11th・b11th・#11th・b13th・#13thということですか?
五反田: 種明かしをしておこう。実はb11thというテンションはいかなるコードにも存在しない。同じように#13thというのも存在しないんじゃ。よかったのう。
ひろ子: ちっともよくありません(-.-#)。さあ、7thコードのテンション、行きましょう。
五反田: 7thコードのテンションを考えるときはその音を「ソ」とした音階で考えるんじゃ。
ひろ子: また、ややこしいことを.....

例えば「G7」だとすると、「G」を「ソ」とした音階だから....あ!、キーがC(ハ長調)のドレミですね!

五反田: その通り。音階はこうじゃ。

7thコードを和音で弾く場合、3度・7度・テンションの3つの音を弾くのが基本じゃ。

ひろ子: たった3音だけでいいんですか?
五反田: ジャズの場合、通常はルートはベースが弾いてくれるから、バンド全体としては4音になるんじゃが。いっぱい音を重ねすぎてサウンドの焦点がボケないようにすることが大事じゃ。

まず、9th。ナチュラル9thより、b9th・#9thの方が圧倒的に使われることが多い。

ここで思い出して欲しいのは「ノン・ダイアトニック・コード」のところで「#Vdim」はドミナント7thの代理コードだったということ。「G#dim」の構成音をもう一度、見てみよう。

G7フラッテッド9thそのものなのがわかるじゃろう。

ひろ子: 7thコードの半音上のディミニッシュはフラッテッド9thのサウンドなんですね。なるほど。
五反田:

次は11th。

ここでは「bII7」がドミナント7thの代理コードだと言うことを思い出して欲しい。

「Db7」には#11thである「ド#=レb」、b9thである「ラb」が含まれておるじゃろう。つまり「Db7」をGルートで弾けば「G7b9#11」というサウンドが得られるんじゃ。このようにテンションと代理コードはある意味、同じことだということは頭の片隅に置いておいてくれ。

ナチュラル11thは特殊な場合以外、あまり使われないな。「V7sus4」とあまり区別が付かないし。

ひろ子: V7sus4」って何ですか? 初耳です。
五反田: サスペンデッド4th(suspended fourth)と言って、1度の完全4度上を引っ掛けて、進行を遅らせる(suspend)させるんじゃ。「X7sus4-X7」と進行させることが多い。

ひろ子: バッハのオルガン曲で出てきそうですね。
五反田: 最後は13thじゃ。

以上!

ひろ子: 以上じゃないですよ、博士!。今日は憶えることがいっぱい。もう頭がパンクしそうです。
五反田: これでも随分、端折って説明したつもりなんじゃが...。

テンションについてはこれからも折に触れて説明していこうと思っているので、とりあえず今日の所はテンションの数え方だけはマスターしてくれたまえ。

>ひろ子: 整理しますと、テンションの数え方にはメジャー7thコード、マイナー7thコードと7thコードの3種類があって、
  • メジャー7thコード−1度を「ド」としたメジャー・スケール上で数える
  • マイナー7thコード−1度を「ラ」としたメロディック・マイナー・スケール上で数える
  • 7thコード−1度を「ソ」としたメジャー・スケール上で数える

でしたね。特に7thコードのテンションを数える時は頭を使います。

五反田: だから頭なんか使わずに、4度圏(5度圏)を暗記しなさいと言ったじゃろう! 4度圏(5度圏)の左となりのメジャー・スケールと憶えれば良いんじゃ!
ひろ子: そうかあ! 4度圏(5度圏)の暗記はこんな所でも生きてくるんですね。やっぱり暗記しなくっちゃ。
五反田: なんじゃ、まだ暗記しとらんかったのか!
今回は濃〜い内容になってしまいました。これにめげずに頑張りましょう。
つづく
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五反田博士のよくわかる解説

IVm6だけは例外
IVm6の3度と6度(キーがC(ハ長調)なら「ラb」と「レ」)の音程が三全音(トライトーン)で不安定であり、トニックへの強い引力を持つ、んだそうです。よくわかんない説明だよね。個人的には「III7」(3度7th)と代理コードだと考える。つまり「Fm6-C」じゃなく「Fm6-Am」の方がスムーズかと。一時的に関係短調に解決するふりして長調へ解決しているんじゃないかと理解しております。そういえば「ラb=ソ#」と「レ」は「E7」の3度と7度だしね。
3度と7度という2つの音が非常に重要
ドミナント7thの3度と7度(キーがC(ハ長調)なら「シ」と「ファ」)の音程が三全音(トライトーン)で不安定であり、トニックへの強い引力を持つ。って上の説明と一緒です。トライトーンが何故不安定なのか、トニックが何故安定してるのかを理解するためには、実は倍音(オーバートーン)という物理の勉強をしないと難しい。ここではその説明は割愛させていただきます。ぼくもよく判らないし...
ここではピアノなんかで7thコードをボイシングする時に、3度と7度を必ず含むように弾かなきゃいけないことは覚えておいてください。
6度というのは
理論書などを読むと6thを基本として、メジャー7thはそのテンションと説明している。でもジャズでは圧倒的にメジャー7thの方が一般的なので、こういう記述にさせてもらう。ただ個人的には6thを基本とする考えには疑問がある。なんで6thだけ偶数なの?
b13thは響きが汚い
だってそうとしか説明のしようがないんだもん。勘弁して。
メロディック・マイナー・スケール
テンションの説明のためにはナチュラル・マイナーでもハーモニック・マイナーでもよかったんじゃが、6度を説明するために、あえて書きました。
3度・7度・テンションの3つ
3度と7度の音程が三全音(トライトーン)で7thコードの特徴をこの2音だけで十分に表現出来ることの証拠でもあります。
4度圏(5度圏)を暗記
第3部第1話で言いました。騙されたと思って(騙してはいないけれど)暗記してください。上達への早道です。

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