2001年 1月20日更新
タイトル・ロゴ第3部
これは千葉県浦安市に住む島袋 ひろ子(OL 25歳 仮名)が、一念発起しジャズ・ピアノを始め、上達していく物語である。
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第2話 コードとコードの間には
〜コード進行の必然性〜
今日はまず、お便りでもらった質問から。
ひろ子: 博士、先日、横浜市日吉区にお住まいの福田さんからお便りを頂きました。

「ぼくはトランペットを演奏しますが、ウラにアクセントをなかなか付けられません。何か良い練習方法はないでしょうか?」

ということなんですが。

五反田: 前にも話したと思うが、ジャズだからって「ウラ」ばっかりにアクセントを付けてもダメで、「アタマ」と同じように「ウラ」を扱うことが重要なんじゃ。とはいってもクラシックやブラス・バンドの経験が長くてポップスなどの経験が浅いと、どうしても「ウラ」が弱くなってしまう。
ひろ子: 第1部第5話でしたね。私はエレクトーン出身だったので、ある程度、シンコペーションには慣れていましたが、やっぱりジャズの「スウィング」というか「ウラ」の感じ方には戸惑いました。
五反田: 「ウラ」を克服するにはCDなどの演奏をコピーして、それと全く同じに演奏する練習をするしかないんじゃが、例えば日頃の音階練習などでこんなパターンをやってみるといいかもしれん。

普通、音階を3度づつ上下するパターンとして、こんなのをやるじゃろう。

それをこうしてみるんじゃ。

さらにこれを半拍前にずらしてやってみる。

ひろ子: たった半拍ずらしただけで、相当難しくなりますね。このときのアクセントはウラに付けるんですか?
五反田: いや、特にウラにアクセントを付けなくてもよい。むしろ、アタマをしっかりと感じながら半拍ずれてるんだと言うことを意識して練習することが大事じゃ。もちろん、練習するときはメトロノームを使ってね。4分音符を鳴らしながらやるといい。

ひろ子くんはメトロノームは持ってるよね。

ひろ子: 電子メトロノームなら持っていますけど。
五反田: あのランプがピカピカ光るヤツか? 

あんなのじゃいかん! 

前にも言ったが、ビートは点じゃなく、長さを持った線なんじゃ。電子メトロノームの「ピカピカ」じゃあ、ビートを点でしか表せない。ねじ巻き式の振り子が振れるメトロノームならビートの長さを振り子の振幅で表せるじゃろう。常にビートの長さを感じるためには昔ながらのメトロノームじゃなきゃいかのじゃ。

ひろ子: はい、わかりました。福田さんもわかりましたあ?

さて博士、今日のお題に入りましょう。

以前、博士がコード進行には「パターンというか、ツボもあるから」とおっしゃっていましたよね? そろそろ、それを教えてください!

五反田: 第1部第6話じゃったな。コピーをするのにコード進行が判っていた方がいい、みたいな話の中でつい、言ってしまった。
ひろ子: 確かにスタンダードとかを見ていると似たようなコード進行が出てきて、これがその「パターン」なのかなあ、と思ったりするんですが、今一度、確認の上でも教えてください。
五反田: よし、それじゃあ、始めよう。

コードとコードの間には見えない力というか、引きつけ合う力があり、「このコードの次はこれ」みたいに必然的に進行が決まることが多いんじゃ。

ひろ子: 必然的に、ですか?
五反田: もちろん、そればっかりじゃ、当たり前のコード進行ばかりになってしまい、つまらないから、時には意外なコードを使ったりするわけなんじゃが...

まあ、そのへんは理論をこねくり回せば説明することは出来るじゃろうが、「ズージャでGO!」では小難しいことを言わずに、「こういうパターンがある」という風に学んでいこう。

コードとコードの間には物理学の4つの力同じように「4つの力」が働いておる。

ひろ子: 「4つの力」ですかあ?
五反田: 4つかな? 5つだったけなあ?
ひろ子: また、博士! いい加減なんだから。
五反田: まあ、そう言わずに。今すぐに思いつくのは4つじゃから、「4つの力」にしておこう。

例えば次のようなコード進行の曲があったとしよう。

ひろ子: これまた随分とシンプルなコード進行ですね。
五反田: このシンプルなコード進行を少しづつ複雑にしていこうというわけじゃ。

まず、第1の力は前回も説明した「ドミナント・モーション」の力じゃ。

ひろ子: 5度のセブンスからトニックに進行する、というヤツですね。例えばキーがC(ハ長調)なら7からmaj7へ5度進行するパターンですね。4段目の2〜3小節目に1カ所だけあります。
五反田: 上のコードに「ドミナント・モーション」を加えてみよう。これをジャズで、しかもアドリブを取るという前提で考えた場合、是非とも直さなければいけない箇所があるんじゃが、わかるかな?
ひろ子: 最後の「maj7」が2小節続くところですね。コーラスのアタマに戻るのに、このままでは「maj7」が6小節も続いてしまうので、直した方がいいです。コーラスの最後を「7」にすれば、スムーズにアタマに入れます。
五反田: その通りじゃ。以前にも話したが、コーラスのアタマに戻る最後の2小節位を「ターンバック」と言って、譜面に書いていなくてもアタマに戻りやすいようにコードを変えるのが「定説」じゃ。

それ以外にはないかな?

ひろ子: 3段目で「Fmaj7」があるので、ここも「ドミナント・モーション」出来そうです。「Fmaj7」に5度下行するセブンスだから、「F・G・A・B・C」... C7です!
五反田: そうじゃそうじゃ。あと、2段目の「Am7」にもドミナント・モーションしよう。「Am7」に5度進行するセブンスは「E7」じゃ。さて、コード進行はどう変わったかな?

ひろ子: わあ! 随分、曲らしくなりました。「ドミナント」を付け加えるだけでこんなにも印象が変わるんですね。

2番目の力は何ですか?

五反田: 2番目は前回も説明したが、「II-V(ツー・ファイブ)」の力じゃ。ドミナント・セブンスを「IIm7-V7(ツー・ファイブ)」に分割するんじゃ。例えば「7」は「Dm7-7」という具合に、5度上の「Xm7(マイナー・セブンス)」をつけたすんじゃ。
ひろ子: え〜っと、3小節目の「E7」をツー・ファイブにすると、Eの5度上だから....
五反田: ひろ子くん! いつまで指折り数えてるんじゃ。4度圏(5度圏)を暗記せい言ったじゃろう。
ひろ子: ごめんなさい、まだ憶えきれてないんです。でも早速、4度圏の暗記が役に立つんですね。わたしも真剣に暗記しよう!え〜、「E7」は「Bm7-E7」に分割できます。
五反田: ん〜、確かにそうじゃが、ここではマイナーに解決するツー・ファイブと言うことで、「Bm7-5-E7」にしよう。

同じようにさっきドミナント・モーションに変えたところをツー・ファイブにしてみるとこうなるな。

ひろ子: コードの流れがスムーズになったような気がします。
五反田: さらに第3の力、「サブドミナント−サブドミナント・マイナー」を使ってみよう。この曲はキーがC(ハ長調)だから、サブドミナントは「Fmaj7」じゃな? ちょうど3段目に「Fmaj7」が2小節続くところがあるから、この2小節目を「サブドミナント・マイナー」である「Fm」にしよう。
ひろ子: Fm」というとですね。「Fm7じゃあないんですか?
五反田: Fm7」でもいんじゃが、ここでは「Fm6というのもありなんじゃ。「Fm6」の方がちょっとせつないというか、「胸キュン」な感じがせんか?
ひろ子: 確かに「Fm7」の方が明るいサウンドがします。
五反田: あと、前回、「Em7」や「Am7」は「Cmaj7」の代わりと説明したじゃろう。それを使って3段目の3小節目の「Cmaj7」を「Em7」に変えてみる。さらにこれを「II-V(ツー・ファイブ)」にするために「A7」につなげてみよう。
ひろ子: 3段目をこんな風にしてみるんですね。

五反田: さらに4段目3小節目の「Cmaj7」も「Em7-A7」にしよう。え〜い、ついでじゃから2段目の「Am7」が2小節続くところもツー・ファイブにしてしまえ。全部通すとこうなるな。

ひろ子: すご〜い、あのダサダサの曲がスタンダードみたいに変身しました。
五反田: もう一つついでに言うと4段目をちょっと変えてみると、もう16小節続けたくなるようなサウンドになるじゃろう。

ひろ子: スタンダードなどでA−A’形式のような感じになるんですね。それにしても最初に較べてコードの変化が細かくなりましたね。
五反田: もっと細かくしようと思えば細かくなるんじゃが、ものには限度があって、これ以上細かくしてしまうとアドリブを取るのが大変になってしまう。この辺が妥当なところじゃろう。

今はどんどんコードを細かくしていったが、これを逆にすれば複雑なコード進行を単純なコード進行に変えることもできるんじゃ。ジャズではコードを細分化したり単純化したりしながら、オリジナリティーを表現しておるんじゃ。

ひろ子: ところで博士、上のコード進行ですが、前回教わった「ダイアトニック・コード」以外のコードがいっぱい、使われてますよ。これらについても少し説明してください。
五反田: 上のコード進行を相対コードで書き表すと次のようになる。赤い字で書いたコードがダイアトニック・コードではないコード、「ノン・ダイアトニック・コード」じゃ。

ひろ子: 例えば「Vm7」というのは5度のマイナー7thだから、キーがCだったら「m7」ということですね。
五反田: 考えてみれば当然のことなんじゃが、音楽は「ダイアトニック・コード」だけで出来ているわけじゃない。いや。むしろ「ダイアトニック・コード」だけで出来ている曲はないかもしれない。

逆に言えば「ノン・ダイアトニック・コード」を如何に使うかでその曲の色合いや個性が出ると言っても良いかもしれん。

そしてアドリブにおいても「ノン・ダイアトニック・コード」を如何に料理するかでソロの広がりやサウンドの豊かさが決まるとも言えるんじゃ。

ひろ子: そういえば、随分初めの頃に「Fのブルースでは7に注目しなさいと言われましたよね。あれを相対コードで表すと「VI7」ということで、「ノン・ダイアトニック・コード」だったんですね。また、第2部第5話では「II7」についても教えていただきましたが、これも「ノン・ダイアトニック・コード」です。
五反田: 言うまでもないと思うが、「ノン・ダイアトニック・コード」には普通の「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」以外の音が使われている。例えば「7」であれば「ファ#」、「m7」であれば「シb」、「m6」は「ラb」、「7」は「ド#」という「ノン・ダイアトニック」な音が使われている。

   

ひろ子: キーがC(ハ長調)だとすると、シャープやフラットの付いている音が「ノン・ダイアトニック」な音です。

アドリブの時にはそれらの「ノン・ダイアトニック」音を上手に使ったフレーズを弾くわけですね。でもそれは「言うは易し、行うは難し」です〜。どうやってフレーズを作っていけばいいんでしょうか?

五反田: 「流れ」に注目するんじゃ。一つのコードだけをじっと見ていても何も始まらん。例えば上の曲の2段目、「Vm7-I7」はサブ・ドミナントの「IVmaj7」へつながる「II-V(ツー・ファイブ)」なんじゃ。だから「Vm7-I7-IVmaj7」という3つのコード進行の「流れ」に則ってフレーズを組み立てていくわけじゃ。この場合、そのあとに「サブ・ドミナント・マイナー」があるから、それも含めた長い流れでフレーズを作ってみてはどうだろう。

「このコードだからこのフレーズ」などとは考えず、メロディの自然の流れで使われる音が「たまたま」コード上のノン・ダイアトニック音である、というふうにすべきなんじゃ。

ひろ子: フレーズ主体で考えるわけですね。
五反田: もちろん、アドリブをする上でのアプローチ方法というのは色々あり、「フレーズ主体」というのはその一つであるわけだが、もっとも基本的な、かつ効果的な方法なので、ひろ子くんも、まずフレーズを第一に考えてアドリブするのがよかろう。
ひろ子: はい、わかりました。

ところで、博士、さっき「4つの力」とおっしゃいましたが、まだ3つしか説明してませんよ。あとの一つは何ですか?!

五反田: おう、そうじゃったか。あと一つあと一つ...何にしようかな。そうじゃ、4つ目は「ベースの力」にしよう。
ひろ子: 「ベースの力」ですか?
五反田: 例えばこんな曲がある。

(オリジナルのコード進行とは若干異なるかもしれません)

ひろ子: G7/B」というのはどういうコードですか?
五反田: G7」というコードをBをベース(ルート)にして弾くということじゃ。人によって書き方はいろいろあって、「G7 on B」なんて書いたりもする。

この曲ではベースが1音ずつ、時には半音ずつ下行するラインに導かれるようにコードが変わっていくんじゃ。

ひろ子: パッと見は普通のコード進行にも見えますが、ベース音を上のようにすることでコードとコードのつながりがスムーズになるような気がします。
五反田: そうじゃろう、そうじゃろう。上の例ではベース音がコードの構成音に含まれていたが、そうでない場合もある。つまり、コードの構成音以外の音をベースで弾く場合もあるんじゃ。

ベースがコードを結びつける例をもう1曲、紹介しよう。オリジナルはおそらくこんなコード進行だと思うんじゃ。

しかし、ジャズの現場では往々にしてこう演奏されるんじゃ。

ひろ子: ベースが半音ずつ上がっていくんですね。「Ebmaj7」と「Fm7」を結びつけるのに「Edim」があり、「Fm7」と「Gm7」を「F#dim」が結びつけているんですね。
五反田: こういう使われ方をするディミニッシュのことを「パッシング・ディミニッシュ」なんて言うんじゃが、名前はどうでもいいとして、ベースが上行する流れにコードを付けてみました、みたいな感じじゃろう。これも「ベースの力」でコードを結びつけている例の一つじゃ。
ひろ子: 第2部第9話のシアリング・サウンドで言ってた、「困ったときのディミニッシュ」に近いものがありませんか?
五反田: おお!、鋭いな、ひろ子くん、そうなんじゃ。あれもパッシング・ディミニッシュの1種じゃ。

ディミニッシュは「つなぎ」や「身代わり」で使われることが多いので、いろんな言われ方をするじゃろうが、それぞれ何のつなぎなのか、何の代わりなのかを理解しないと、意味不明なコードになってしまう。

ひろ子: よくよく見てみると「Edim」は「C7」とほとんど一緒だし、「F#dim」も「7」と似ていますね。

五反田: そうなんじゃ。「Edim」は「C#dim」と同じで、「C#dim」は「C7」の代理コードなんじゃ。同じように「F#dim」は「D#dim」と同じで「7」の代理コードじゃ。この辺はおいおい、説明していこう。

どうじゃ、少しはコードとコードの関係が判ってきたかね?

ひろ子: 実は博士、まだ、あんまりよく判らないんです。
五反田: なに〜? しょうがないなあ。まあ、音楽はいろんな角度から捉えることが出来るので、次回は違うアプローチから「コード進行」というものを説明しよう。
ひろ子: よろしくお願いします。ところで、今回のマイナス・ワンは何にしましょうか?
五反田: 左じゃあ、最後に紹介した。「It Could Happen To You」にしよう。デクスター・ゴードンの「Fried Banana」は同じコード進行だし、ソニー・ロリンズの演奏で有名な「On A Slow Boat To China」も殆ど同じコード進行じゃ。
ひろ子: それでは、It Could Happen To Youをお送りします。

次回はもう一度、コード進行について説明します。
つづく
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五反田博士のよくわかる解説

「物理学の4つの力」
「強い力」、「弱い力」、「電磁気力」、「重力」のこと。ここではコードとコードの4つの力とこじつけているが、もちろん、4つしかないわけじゃあない。
4度圏(5度圏)を暗記せい
これはわしの経験から言うんじゃ。今からでも遅くはない。暗記せい!
Fのブルースでは7に注目しなさい
第1部第4話でフレーズ例を紹介して説明しておる。いままで7に力点を置いていなかった人は騙されたと思って、注意してみなさい。あなたのアドリブが見違えるようにカラフルになります。
困ったときのディミニッシュ
わしが勝手に付けたネーミング。メロディーをクローズド・ボイシングするときのひとつの指針として、どうやってボイシングするか迷ったときにはディミニッシュでボイシングしなさいという、極めていい加減ながら実践的な理論。

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