1999年 8月25日更新
タイトル・ロゴ第2部
これは千葉県浦安市に住む島袋 ひろ子(OL 25歳 仮名)が、一念発起しジャズ・ピアノを始め、上達していく物語である。
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第2話 何の曲をやろうか?
〜曲選びのポイント〜
ジャム・セッションが終わった後の飲み会の席で、急遽、結成された「ひろ子クインテット」。あんまり飲み過ぎないうちにいろいろと打ち合わせておかないと...
ひろ子: 博士! バンドのメンバーが決まったんですから、練習日や練習する曲とかを打ち合わせませんか?
五反田: やるとなったら急に積極的になりおって。いいことじゃ、いいことじゃ。
ひろ子: 練習日はいつにしましょうか?
五反田: いやいや、ちょっと待て。まず、バンドのコンセプトを明確にしておこう。
ひろ子: 「バンドのコンセプト」って、どういうことですか?
五反田: つまり、バンドの目指す方向性だとか、目的などをあらかじめ決めておくんじゃ。

「ひろQ」の目標は「ひろ子くんがまともにジャズ・ピアノが弾けるようになる」こととしよう。

ひろ子: 音楽的にはどういう方向性になるんでしょう?
五反田: 「楽しくファンキーなハード・バップ」じゃ!
ひろ子: バンドの目的と音楽性はあんまり、関係ないような....

練習はやっぱり、月に1回ぐらいですか?

五反田: そうじゃな、バークレーに留学するような人には物足りないじゃろうが、みんな仕事を持っておるんでな。月1回が限界だろう

でも練習の時にたっぷり課題を与えるから、一ヶ月なんてあっという間に過ぎてしまうかもしれんぞ。みんなで合わせる練習も大事じゃが、ひとりでコツコツする練習も大事なんじゃ。

ひろ子: でも、わたしはレパートリーが少ないし、知ってるスタンダードもそんなに多くはないんです。
五反田: ジャズだからって何もスタンダードだけを演奏するわけではないぞ。
ひろ子: スタンダード以外というと、ジャズ・オリジナルって言うんでしたっけ? ジャズ・ミュージシャンが演奏のためだけに作った曲のことですよね。

でも、そういう曲って、難しいんじゃないですか?

五反田: 初心者が陥りやすい間違いを一つ、指摘しておこう。

スタンダードを普通に演奏するほど、難しいことはない!

かえって、適度にキメがある曲の方が練習する課題が見えやすいし、うまくいったときの完成感というか達成感が得られるんじゃ。

ひろ子: 確かにスタンダードでは、「ここまでやれば完成」というのはないですからね。
五反田: それじゃあ、最初の練習でやる曲を決めようか。

わしには練習でやる曲を選ぶときのポイントがいくつかある。

  • 最初の曲はミディアム・テンポの、適度にコードが変わるものにする
  • 同じキー、同じテンポの曲は続けない
  • メジャー(長調)とマイナー(短調)の曲をうまく分散させる
  • テーマをしっかり合わせる曲とアドリブに専念する曲のバランスを取る
  • 4ビート以外の曲も取り上げる
ひろ子: 最初はブルースじゃないんですか?
五反田: ブルースでもいいんだが、1曲目ということで、ウォーミング・アップも兼ねて、テンポはあまり速くなく、キーも難しくなく、コード進行も平易な曲をやるのがよかろう。アドリブを取らなくてもバックのサウンドを聴いてるだけでも気持ちいいような、優しい曲がいいかな。
ひろ子: 同じキー、同じテンポを続けない、っていうのは大事ですね。
五反田: どうしてもキーやテンポが同じだと、同じ雰囲気になってしまいがちじゃからな。その意味でメジャーとマイナーの曲をうまく分散させると、バライティに富む選曲が出来るじゃろう。
ひろ子: 「テーマをしっかり合わせる」曲というのはどういう曲ですか?
五反田: さっき、ひろ子くんが言った「ジャズ・オリジナル」や、スタンダードでもアレンジされたテーマをアンサンブルで演奏するような曲じゃ。こういうのはアドリブを練習する以上に、テーマのアンサンブルをしっかりと練習する必要がある。

でもこういう曲ばっかりじゃ疲れちゃうんで、その合間に「スタンダードを普通に演奏する」曲も入れるんじゃ。

ひろ子: 4ビート以外の曲っていうと、ボサノバとか、ということですか?
五反田: ひろ子くんの得意なボサノバや、サンバ、アフロ・ビート、時には8ビート、16ビートなんかもいいじゃろう。
ひろ子: 「ボサノバ」って言ってもエレクトーンで弾いてただけですし、ジャズで演奏するときとキーが違ってることも多いんですが....

でも、雰囲気は変わりますよね。

五反田: 雰囲気を変えるだけじゃなく、重要な意味もあるんじゃが、それについてはあとあと、述べよう。

じゃあ、1曲目は「第1部 第8話 やっぱり基礎が大事?」でも出てきた、「I'll Close My Eyes」をやろう。

ひろ子: これならカラオケもあるから、ひとりでアドリブ練習もできます。
五反田: 2曲目にソニー・クラークの「Blue Minor」をやろう。
ひろ子: あ! あのハイヒールのジャケットで有名な「Coll Struttin'/Sonny Clark BLUE NOTE 1588」に入っている曲ですね。

でも、なぜ、唐突に「Blue Minor」なんですか?

五反田: あの曲はテーマがラテン・ビートだし、テーマのアンサンブルも比較的簡単だしな。

と、いうかわしの好きな曲なんじゃ。

3曲目には「Fのブルース」をやろう。それでちょっと休憩して、4曲目はひろ子くんのレパートリーから「Softly As In A Morning Sunrise」をピアノ・トリオでやろう。

ひろ子: え! ピアノ・トリオって難しいんじゃ、ないんですか?
五反田: その通り。でも難しいからって逃げていても始まらん。とにかくやってみなければ。この曲だけひろ子くんがリーダーとなって、バンドを率いるんじゃ。
ひろ子: はい、がんばります....
五反田: 5曲目はアンサンブルもので「Take The A Train」を、最後に「There Is No Greater Love」をやって、大体2時間くらいじゃろう。
ひろ子: 「There Is No Greater Love」って、知らないんですが。
五反田: 知らなくても大丈夫、大丈夫。なんとかなるじゃろう。
ひろ子: じゃあ、もう一度整理すると
  1. I'll Close My Eyes (key=F Major ♪=130)
  2. Blue Minor (key=F minor ♪=160)
  3. Fのブルース(key=F Major ♪=140)
  4. Softly As In A Morning Sunrise (key=C minor ♪=120)
  5. Take The A Train (key=C Major ♪=165)
  6. There Is No Greater Love (key=Bb Major ♪=140)

ですね。確かにキーやテンポ、メジャー/マイナーがうまく分散していますね。

五反田: テーマのアンサンブルをしっかり練習するのは「Blue Minor」と「Take The A Train」の2曲。
ひろ子: 「Blue Minor」と「There Is No Greater Love」のリード・シートを持ってないんですが。
五反田: じゃあ、「Blue Minor」のリード・シートとカラオケをここに載せておこう。

「There Is No Greater Love」のリード・シートはあとでメールで送っておこう。

ひろ子: ついでにカラオケも送っていただければ、嬉しいんですが.....
五反田: ひろ子くんも徐々に、「デジタル武装」してきたな。使えるモノは何でも活用せんとな!
曲も決まり、いよいよ次回から「ひろQ」の練習開始です!
つづく
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五反田博士のよくわかる解説

練習は月1回が限界
学生バンドであれば、それこそ、毎日4〜5時間練習するもんじゃ。しかし、社会人同士ではそうもいかん。逆に言うとバンドで集まって練習することはそれほど重要でない。ということに、わしも最近、気が付いた。ジャズは個人的な音楽なんじゃ。
スタンダードだけを演奏するわけではない
いつの頃からだろう、「ジャズ=スタンダード」みたいな風潮が広がったのは。少なくともワシの学生時代はそんなにスタンダード、スタンダードと言われなかった。1980年代から日本制作のスタンダード・アルバム、例えばケニー・ドリューの一連のアルバムなどが作用してるんだろうか。でも、その頃、キース・ジャレットもスタンダードをやりだしたしな。フュージョン時代の反動なんだろうか。それにしてはちょっと反動が強すぎるのではないだろうか。ワシは「Steps」のように、フュージョンと伝統的なズージャをアウフヘーベンした、ネオ・ビバップ的なジャズが主流になると思っていたんだが...
適度にコードが変わる曲
「ステラ・バイ・スターダスト」のようにあまりに美しすぎるコード進行の曲は対象外。その点、「I'll Close My Eyes」は関係短調へ行ったり、4度上へのII-Vがあったり、IV-IVmがあったりで、教科書的なコード進行に溢れておる。もっとも、一番、バップらしいコード進行の曲という意味では「Donna Lee」じゃろうが、あれはテーマが「唄えない」からね。

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