1999年 8月20日更新
タイトル・ロゴ第1部
これは千葉県浦安市に住む島袋 ひろ子(OL 25歳 仮名)が、一念発起しジャズ・ピアノを始め、上達していく物語である。
大目次 第一部目次 前の話へ 次の話へ MIDI index

第7話 デジタル武装計画 
〜パソコンの活用方法〜
前回、コピーの方法を教わったひろ子ではあったが、なかなか思うに任せない。何か秘密はないものかと五反田博士に詰め寄ります。
ひろ子: 博士! 前回、教わったコピーをやってるんですけど、慣れないせいかなかなか音を聞き取るのが難しいですね。

フレーズを口ずさんでそれを楽器で弾こうとするんですけど、半音の違いとかがうまく取れなくて。わたしって音痴なのかしらん。

五反田: そんなことはないじゃろう。確かにジャズの音使いに慣れないうちは苦労するもんじゃ。で、今日はそんなひろ子ちゃんのために秘密兵器を紹介しようと思ってな。この機械じゃ。

AKAI U-40のお姿

これはAKAIのRIFF−O−MATIC(U40)という機械で、VARIABLE TEMPO PHRASE SAMPLER、またの名を「フレーズの音程を変えずにテンポだけを遅くする機械」と言う!

ひろ子: そのまんまじゃないですか!

これなら前に「Jazz Lifeに記事が載ってたのを見たことがあります。思ってたより随分とコンパクトなんですね。14cm×10cmで、厚さも3cm弱です。でも「フレーズの音程を変えずにテンポだけを遅くする」って、そんなに凄いことなんですか?

五反田: これこそ、わしらコピラーの永年の夢だったんじゃよ!

昔はテープ・レコーダの回転を落としてスピードを遅くしてコピーしてたんじゃが、これだと音程も下がってしまい、聞き取りづらかった。スピードを半分にすると音程が1オクターブ下がるんでな。

このRIFF−O−MATIC(U40)だと、音程を変えずにスピードだけ2/3もしくは1/2に落とせるんで、リズムと音程の両方が聞き取れるんじゃ。

ひろ子: わたしは何も使わずに一生懸命コピーしてたのに、博士は道具に頼っていたんですか! 
五反田: すまん、すまん。だからこうやって種明かしをしとるじゃないか。それに道具に頼ってはおらんぞ。普通のフレーズは普通のスペードでコピーしとるからな。

それに、これは副産物というか思わぬ収穫なんじゃが、スピードを落として音楽を聴くと別な世界が見えて来る。ノリのニュアンスとか演奏者の気持ちみたいなものが手に取るようにわかるんじゃ。

MIDIではニュアンスが伝わりづらいかもしれんが、こんな演奏があったとする。

3コーラス目

これは「4分音符=230」ぐらいで演奏するものじゃ。

これを半分の「4分音符=115」で再生してみる。

なかなか、面白いじゃろう! ひろ子ちゃんも自分がよく知ってる演奏をこうやってテンポを落として聴いてみるがいい。

ひろ子: ..じゃあ、それはいいとして、他に隠してる秘密兵器はないんですか?
五反田: 秘密兵器というわけではないが、「MIDIシーケンサー」を使っておる。
ひろ子: 第2話の楽器を買いに行こう」で言ってた「MIDI」ってやつですね。わたしの電子ピアノにも付いてますよ。でもどうやって使うのかがわからなくて...
五反田: MIDIというのは平たく言えば電子ピアノなんかの鍵盤を押した・離したというのを電気信号に変えて、他の電子楽器に伝える仕組みだと思えばいい。

例えばメーカーも違う電子ピアノとシンセサイザーをつないで、電子ピアノを弾くとシンセサイザーも一緒に鳴る、ということが出来るんじゃ。

ひろ子: 電子ピアノの鍵盤って、結局はスイッチと同じですからね。
五反田: まあ、もちろん押した・離しただけじゃなく、押した強さや、押した後にビブラートをかけるとか、その他、色々な信号も送るんじゃがね。

で、その電気信号をテープに録音するようにコンピュータに録音するのが「MIDIシーケンサー」なんじゃ。

ひろ子: 「録音」ですか? よく言われる「打ち込み」とは違うんですか?
五反田: まあ、同じことなんじゃが、言葉のニュアンスで「打ち込み」というとある種の特別なイメージを連想されてしまうので、わしは敢えて言わないようにしとるんじゃ。
ひろ子: で、「MIDIシーケンサー」で何が出来るんですか?
五反田: MTR(Multi Track Recorder)というのを知っとるかのう? 一つずつ楽器を録音していって、曲を完成させるってやつじゃ。「MIDIシーケンサー」はそれをMIDIデータを記録することで行うもの。たとえば最初にドラムを記録して、次にベース、ピアノ、サックスと順々に記録していけば、1曲ができあがるというわけじゃ。

MTRと違って「MIDIシーケンサー」は電気信号を記録するわけで、一度記録したデータを修正したり、曲の途中から記録し直したりが出来るんじゃ。特に曲のテンポを変えたり、キーを変えるのはお手のもんじゃよ。 

ひろ子: さっきの「曲のテンポを落として」もMIDIでしたものね。私もMIDIがやってみたくなりました。

パソコンでMIDIするにはどんな装置が必要なんですか?

五反田: 今時のパソコンなら買ったときから最低限の機能は付いておるじゃろう。MACならQuickTimeというソフトにパソコンをシンセサイザーにする機能があるので、MIDIデータをQuickTimePlayerで開けば再生することは可能じゃ。ただ、やっぱりオモチャの域を出ないのも確かじゃ。

パソコンをシンセサイザーにする「ソフトウェア・シンセサイザー」にはローランドのVSC−88のような製品もあり、これだとコンパクト音源モジュールのSC−88なんかと同等の音質が楽しめる。

ひろ子: でも、録音もしようとするとデータを入力する必要がありますよね。画面で譜面を書いたりして作っていくんですか?
五反田: ん〜ん、確かにそういうものもあるし、MIDIデータの実体は数字の羅列だったりするから、それをテン・キーで「打ち込む」ものもある。が、わしらはアマチュアとはいえ、ミュージシャンの端くれじゃ。そういう非音楽的な作業で音楽を作っても何の足しにもならん。

もちろん、そういう作業で見えてくる「何か」はあるじゃろうが、王道ではない。そういう意味ではキーボード=鍵盤が必須じゃ。

ひろ子: ピアノ奏者でなくても鍵盤が必須なんですか?
五反田: ジャズを演奏するなら鍵盤に親しむのは不可欠じゃ。たとえドラマーであろうとも、ギタリストであろうとも。別に両手でパラパラ弾けと言ってるんじゃない。例えばこのコードのサウンドはどんな感じだろうか、というときに実際に弾いてみて耳で確かめるだけでもいいんじゃ。
ひろ子: 私はピアニストだからデジタル・ピアノを買いましたけど、他の楽器の人はどういう鍵盤がいいんですか?
五反田: 出来ればピアノ・タッチじゃない鍵盤がいい。いわゆるオルガンみたいな軽いタッチのほうがいいじゃろう。MIDIではピアノ以外、ドラムやベースも鍵盤で弾くわけで、そうするとピアノ・タッチの重い鍵盤ではちと厳しい。
ひろ子: え〜、私には出来るだけピアノのタッチに近い楽器を薦めたのに...
五反田: 君はピアノの代用品としての楽器を選んだ訳じゃから仕方あるまい。

鍵盤は出来れば88鍵あればいいが、76鍵でも充分じゃ。61鍵じゃチト厳しいがまあぎりぎり合格というところかな。間違っても鍵盤が小さいミニ・キーボードなんかはいかんぞ!

ひろ子: というといわゆる普通のシンセサイザーということですね。YAMAHAのEX5ローランドのXP−80KORGのN1とか。

じゃあ、そのシンセサイザーとパソコンはどうやって繋ぐんですか?

五反田: 最近のシンセサイザーの中にはパソコン用の端子がついているのも出てきておるようじゃ。その場合は「パソコン接続キット」みたいなのが別売されているから、それでパソコンと楽器を接続すればいい。

ただ、多くの楽器はMIDI端子しか付いておらんから、パソコンの信号をMIDIに変換する「MIDIインターフェース」というのが必要になる。これはMIDI Translatorみたいのから、超高級なMIDI Time Pieceのようなものまで千差万別じゃ。また多くのコンパクト音源にはパソコン用の端子が付いておるのでそれを「MIDIインターフェース」代わりに使う手もあるな。

いずれにしてもこの辺は予算と用途次第じゃな。

ひろ子: 博士はどうやってるんですか?
五反田: わしのは複雑すぎて一言では説明出来んが、MACモデム・ポートにMidi Time Piece IIをシリアル・ケーブルで接続して、MIDI機器はそこからスター型に接続しておる。図にするとこんな感じじゃ。

わしのMIDIシステム

ひろ子: わあ〜、いっぱいありますね。かなり旧式の楽器ばっかりですけど。
五反田: 実際はMJC8という先にも楽器は繋がっておるんじゃが...

まあ、楽器がいっぱいある場合はこんな風にMIDI端子がいっぱい付いている「MIDIインターフェース」が必要じゃが、楽器が二つぐらいならディジー・チェーンで接続して構わないじゃろう。この辺はLANのトポロジーと同じような話になってくるな。

ひろ子: □?▲○?△◇@???
五反田: でも最近はパソコン側の端子がUSBやFireWireというやつに変わってきており、iMACなんかだとUSB−シリアル変換コネクタなんかが必要になることもある。
ひろ子: 難しいですね、よく知ってる人や楽器店のお兄さんに相談するのがいいかもしれないですね。

ところで肝心の「MIDIシーケンサー」はどうなってるんでしょう?

五反田: おお、そうじゃった、そうじゃった。

シーケンサー・ソフトにはフリー・ソフトのCherryやシェアウェアのMIDI Graphyから、PerformerVisionLogicなど千差万別じゃ。

ひろ子: どんなのがいいんでしょう?
五反田: MTRのように録音ボタンを押して曲のアタマから終わりまで録音する物もあるが、やはりVisionやLogicのように様々なシーケンス・パターンを並べていくようなソフトがいいと思う。
ひろ子: シーケンス・パターンを並べるってどういうことですか?
五反田: 例えば、A−A−B−Aの曲だったら、Aのパターンを一つ作ればそれをコピーして使い回したり出来るわけじゃろう。或いは何回も繰り返すところならループさせればよい。そんな風にして曲を作っていくのじゃ。この画面を見れば多少、イメージが掴めるかのう。(c7p2.gif 143kb)
ひろ子: 博士はシーケンサー・ソフトをどういう風に活用してらっしゃるんですか?
五反田: わしはもっぱら、ジャズのデモ演奏作りに使っておる。だから全部のパートを細かく作って1曲を仕上げるなんてことはせんのじゃ。だからドラムもドンカマしか入れない。

わしはある曲をバンドで演奏しようとするときには必ずデモ演奏を作るんじゃ。ベース・ラインやピアノのヴォイシングを研究したり、リズム・パターンやキメを実際に弾いてシーケンサーに録音してみて、どんな感じかを聴いてみるんじゃ。

で、そのデータを元に譜面も作ってしまう。さらにアドリブ練習用のカラオケも作ってしまうんじゃ。

ひろ子: え? じゃ、博士のあのリード・シートのウラにはカラオケ・データが存在しているんですか?
五反田: そうじゃ。わしはLogicというソフトを使っておるんじゃが、そのデスクトップはこんな感じで、シーケンスと譜面データが一体となっておる。(c7p3.gif 162kb

さらにわしはアドリブをコピーするときにもシーケンサーを使っておる。4小節ずつ弾いたり、早いフレーズはテンポを落として弾いたりしたものをくっつけていくと、完コピ終了というわけじゃ。譜面も一緒に出来るし、練習するときはテンポを落としてシーケンサーを再生しながら、一緒に演奏するんじゃ。

ひろ子: それは便利ですね。でも博士はサックスなのにキーボードでコピーするんですか?
五反田: そうなんじゃ、そこがつらいところじゃ。サックスでフレーズをマスターするより先に、キーボードで弾けるようになったりしてな。ガハハハ!
ひろ子: .....

それと第5話の「スウィングしなけりゃ意味ないね!」で登場した、ピアノ・ロール画面なんかもシーケンサーでは見ることが出来るんですよね。

五反田: そうじゃ、このピアノ・ロール画面というのは音楽史上の大発明といってもいい。音を点としてではなく長さを持った線として表しているところが、通常の譜面を上回っている。

ピアノ・ロール画面

ひろ子: 今回は久しぶりと言うこともあって、内容もてんこ盛りでしたね。
五反田: 最後にこのページでも使ったStanley TurrentineのBut Not For Meを聴いてもらおうか。
ひろ子: これもかなり濃いですね。
五反田: わしの血と汗の結晶じゃ。心して聴け、もとい、練習せい!

今回は本当に長くなってしまったので、ひろ子くんには内緒でとっておきの情報はこちらを見てくれ。第7話番外編
つづく
大目次 第一部目次 前の話へ 次の話へ MIDI index

五反田博士のよくわかる解説

Jazz Life
ジャズ・ライフの1998年8月号の「今月の捜索願い」を参照してください。これは前の月の記事でこのU40についてチラッと触れたところ、編集部に問い合わせが殺到したため、急遽、掲載することになったそうじゃ。

テープの回転速度
わしの家にはオープン・リールのテープ・レコーダがあって、もちろん、真空管式じゃったが、生まれた時からテープの回転速度を半分に落とすとスピードが半分に落ちて音程が1オクターブ下がるということを知っておった。

打ち込み
これは多分、日本特有なイメージだと思うんじゃが、テン・キーをカチカチと叩いて一音一音を入力していくこと。NECのPC-98で花開いた「ステップ・レコーディング」も「打ち込み」に含まれる。そのため「シーケンサー=打ち込み」というイメージが出来てしまっている。しかしこれはどう見てもあまり音楽的な作業とは言えず、どちらかというとオタクっぽいイメージが付きまとってしまう。わしはこれがどうも嫌いでな。

inserted by FC2 system