1998年 9月 6日更新
タイトル・ロゴ第1部
これは千葉県浦安市に住む島袋 ひろ子(OL 25歳 仮名)が、一念発起しジャズ・ピアノを始め、上達していく物語である。
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第1話 ジャズってどうやって演奏してるの?
〜曲の構成について〜
毎月第3土曜日の「まつバンド」のジャム・セッションの日。ひろ子は見学に来たが、聴いていてもみんなが何をやってるのか、ちんぷんかんぷん。
ひろ子: みなさんが見てた譜面って、A4の紙1枚の短いやつですよね?
あれでどうやってあんなに長く演奏できるんですか?
五反田: それはね、ジャズを演奏する基本的な約束があるのじゃよ。

じゃあ、さっきも演奏した「森田ーっ!、と」を例にとって説明しようかのう。この曲は知ってるじゃろう、先日亡くなったフランク・シナトラも唄っておったから。曲名は「Macじゃないと」に変えてたっけな。

ひろ子: わたしはWindowsですけど、その曲なら知ってます。

さっきも最初は知ってるメロディーが出てきて、「これなら知ってる、知ってる」と喜んだんですけど、そのうち何やってるかわからなくなって、最後にまた初めの知ってるメロディーが出てきたんです。

五反田: ひろ子ちゃんが知ってるのはこのメロディーじゃろう。

森田ーっ!、との楽譜

これはこの「森田ーっ!、と」を作曲した「来戸 賄賂」が作ったメロディーなのじゃよ。これをジャズではテーマというのじゃ。

ひろ子: みなさんが見てた譜面もこれでしたね。博士、このC、Dm7というのはコードですよね?
五反田: おう、ひろ子ちゃんはエレクトーンを習っていたんじゃな。それならコードは知ってるだろうから、話が早いな。この「テーマ」のコード進行に沿ってアドリブをするのがジャズの基本なのじゃ。
ひろ子: (?????)
五反田: すまん、すまん。ちょっと話をはしょり過ぎたな。
この「テーマ」、「森田ーっ、と」なら16小節を1コーラスというのじゃ。

これを最初に1回みんなで演奏したあと、次はそのコード進行だけを拝借して、違うメロディーを1コーラス単位に弾くのじゃ。それを何回も(何コーラスも)繰り返す。これをアドリブとかソロとか言っている。

ひろ子: じゃあ、わたしが聴いていて分からなくなったのも「テーマ」が終わってソロになったからかなあ。ソロの間もメロディーは違っても、曲は進行していたんですね。
五反田: その通り。もう1回、短めに演奏してみるから、ソロに入ってもどこを演奏してるかをちゃんと譜面で追いかけてみなさい。

ひろ子: 何となく、わかりました。だけど途中、ドラムだけになったところで分からなくなってしまいました。
五反田: あそこは4バースといって、ドラムとそれ以外の人で4小節ずつ交互に演奏しているのじゃよ。ドラムだけになったところも曲は進行しているから、わからなくなったのじゃな。これを見るとわかるかな。

4バースの解説

ひろ子: あ、そうか! あくまで「1コーラス」を繰り返すんですね。一瞬、ドラムだけになったからパニックになってしまって...
五反田: 4バースのあとに、もう1回、最初と同じテーマをみんなで演奏して終わりじゃ。今の演奏の構成を図にするとこんな感じになる。
曲全体の構成

どうじゃ、ジャズって簡単じゃろう!

ひろ子は「簡単だ」とはとても思えなかったが、少しはわかったような気がした。でも、どうしたらみんなのように演奏できるのか、全然わからなかった。
つづく
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五反田博士のよくわかる解説

A4の紙
これを「リード・シート」という。わしもNHK教育テレビの「ジャズの掟」で香取良彦さんがそう言っていたので初めて知ったのじゃが。
リード・シートには厳密ではないが、いくつかの「お約束」がある。
  1. 1段は4小節が原則。これは多くの曲が4小節の倍数単位で出来ていることに由来する。曲によって1小節、2小節余ったときは次の段にせずに同じ段に押し込める。つまり、見易さが一番ということ。
  2. リハーサル・マークを付ける。練習の時に「17小節目からやろう」というより「Bの頭からやろう」と言うほうが話が早いじゃろう。
  3. 極力、1枚におさめる。構成が複雑な曲は別として、だいたい1枚におさまる。
  4. コード・ネームはシンプルに。絶対に間違って欲しくないポイントだけを書く。
  5. イントロ・エンディングは書くことは少ない。あらかじめイントロ・エンディングが作曲されていたり、定番中の定番のようなものがある場合を除いて、普通は演奏者の自由に任せる意味で書かない。
何〜ぃ!「B5の紙じゃだめですか?」じゃと! グローバル・スタンダードはA4じゃよ。

テーマとリフ
「リフ」ということもあるが、やはり「テーマ」というのが一般的じゃろうな。ただ、Charlie Parkerの曲は「リフ」ということが多いような気がするな。「リフ」は「リフレイン」つまり繰り返しの意味じゃが、どうしてじゃろう?
そういえばテーマ以外にみんなで合奏するメロディーを持つ曲があるが、このことを「セカンド・リフ」と言うんじゃな。はて、さて...

バース
「バース」とはbars、つまり小節ということ。でもどちらかというと「交換」という意味に近い。つまり4バースといえば4小節交換、8バースなら8小節交換ということ。バースのやりかたはさまざまで、その場の雰囲気次第という面もあるがパターン的には以下のような形がある。
  • ソロを演奏した順番にドラムとバースをする。つまり下の図のようにソロを採った順番にドラムと交換する。ジャム・セッションなどではこれが定番。
    一般的な4バースの順番
  • フロントだけがドラムとバースをする。つまり、ほかのソロイストにはバースをやらせないという、独裁者的なやり方。1ホーン・カルテットではむしろこうする方が普通。
  • 16バース→8バース→4バース→2バースとバースの単位を細かくしていくパターン。バースが長くなるのが難点じゃが、たまにやると新鮮。
  • ベーシストをバースの輪の中に入れるパターン。普通のソロイストの一人にベースを加えるのじゃ。エディ・ゴメスの場合はこれが普通。
  • ドラム抜きでバース。フロントが2人いるような場合にドラムとのバースではなく、フロント同士のバースにすることがある。「バトル」なんて言うこともある。
アイディア次第でどんなバースも「あり」なのじゃ。また、なにもかたくなに「4小節」にこだわる必要もない。「Alone Together」のように2小節余る(足りない)曲の場合、ドラムが6小節弾いても構わない。もちろん、律儀に4小節でやっても面白いが。

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