Kyoko Koizumi Anata ni Aeteyokatta score
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第10話:小泉今日子の「あなたに会えてよかった」

はじめに

小泉今日子さんは1982年「私の16歳」でデビュー。同期には中森明菜、堀ちえみ、早見優、石川秀美、松居直美(?)らがいたアイドル当たり年で、そのせいか小泉今日子さんはデビュー当時はパッとしなかったように記憶しておる。開花しだしたのは1983年の「まっ赤な女の子」あたりだろうか。楽曲にも恵まれだして、アイドル歌謡のみに許されるブッ飛んだ歌詞とメロディで一世を風靡していく。その極めつけが1985年の「なんてったってアイドル」だろう。そんなキョンキョンが1991年にリリースしたのが、今回取り上げる「あなたに会えてよかった」じゃ。

なんか、「アイドル百科」みたいな話になってしまった。早速、本題に入ることにしよう。

構成

9小節のイントロがあって、サビと言えるA(8)-A’(8)に続き、B(8)-C(10)-A(8)-A’(8)の34小節で1コーラス。7小節の間奏があって、再びB−C−A-A’。イントロのパターンを挟んで、サビで終わります。譜面はイントロから1コーラスを掲載、MIDIデータは間奏を除いて2コーラス収録しています。

ポイントその1

サビにあたるAの出だしのコード。「曲を如何に普通に始めないか」については、ここでも何回か書いてきた。アウフタクトはその一手法だが、ここではコード進行が普通じゃない。

通常、トニック・コード、この曲だとキーがホ長調(E)だから、Eで始まるのが王道。それだけじゃつまらないからとサブ・ドミナントやII-V(ツー・ファイブ)などで始めるのもありがちなパターン。特にサビは「盛り上げどころ」なわけでサブ・ドミナント系のコードで始まる方が普通かもしれない。それなのに、この曲はドミナントであるB7から始まっている。

ご存知のようにドミナント7thはII-V(ツー・ファイブ)に分解出来るが、この場合は今ひとつ「ハマら」ない。

やっぱり、「ドミナントで始める」ことが作曲者の意図だったんじゃろうな。なお、オリジナルではB7Aルート、EG#ルートにしているが、特に意味や効果があるとは思えんのじゃが、いかがだろうか。試しにルートを変えずに演奏したのを聞いてみて欲しい。

ポイントその2

Bのキー。ここはホ長調(E)なのかロ長調(B)なのか。どちらにも取れる。

試しにキーがEと考えた場合とBとした場合の相対コードを書いてみよう。

サビと同じキー=Eと考えると、7−3のツー・ファイブ、つまりトニック・マイナーであるC#マイナーへのII-V-I進行と考えられるが、キー=Bと考えると、3−6−2−5と考えられる。でも、サビからの流れから考えればキー=Eと考えるのが普通。一方、後半4小節はキー=Eではドミナントに解決することになってしまうが、キー=Bと考えると2−5−1じゃ。

前半4小節をキー=E、後半をキー=Bと考えるんだろうか。随分と不自然じゃな。理論的には不自然じゃが、聴いてる分には全く自然な流れに聞こえる。作曲者本人、どの程度意識して作ったかは定かではないが、奇跡とも言えるほど見事な作りじゃ。

ポイントその3

Cというか主メロの後半。

最初のD#m7-5G#7はBと同じなのじゃが、そのまま全音下のハーフ・ディミニッシュを挟んでEbm、最終的にBに進行して、サビに戻るというワザじゃ。

分かりやすいように全体を半音上げてみよう。

キーがハ長調(C)として見てみると、III-VI-II-V(3−6−2−5)からIIIm7(Em7)へのII-V(ツー・ファイブ)があって最終的にCに解決してるように見えないだろうか。

それにしても最後の2小節、A/BBでサビに戻るところは不思議でありながら、自然じゃ。ん〜ん、正直言って「恐れ入りました」という感じ。

最後に

全体的に随分と「考え抜かれた」曲じゃ。そして、もはや言うまでもなく、わしはこういう「考え抜かれた」曲が大好きなんじゃ。何気なく聞こえる音楽も1小節1小節、いや、一拍一拍に知恵と工夫が込められておる。あだやおろそかにダビングなんぞ、してはいかんのじゃ。音楽を作る人たちに敬意を払わなくちゃいかん。

ちょっと、堅い話になってしまったかのう。そんなわけでみんなも小泉今日子さんを聞こう。「あなたに会えてよかった」はアルバムだと「afropia(Victor VICL-180)」に収録されている。ベスト・アルバムであれば「K2 Best Seller(Victor VICL-40034)(2枚組)」や「Anytime(Victor VICL-617)」などに収録されているようです。

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