Blood Sweat & Tears Spinning Wheel score
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第3話:Blood,Sweat & Tearsの「Spinning Wheel」

はじめに

Blood,Sweat & Tearsといっても今や知ってる人は少ないかも知れない。フュージョンがクロスオーバーと呼ばれていた時代より、もっと前の1967年に結成されたジャズ・ロック・グループじゃ。今回取り上げた「Spinning Wheel」は1968年に発表された彼らの一番のヒットで、1969年グラミー賞の最優秀アレンジメント賞を受賞、この曲を含むアルバム「Blood,Sweat & Tears」は最優秀アルバムを受賞した。

ここで少しBlood,Sweat & Tears略してBS&Tのことを紹介しておこう。

1967年に結成されて以来、メンバー・チェンジを繰り返しながら今も活動しているらしい。バンド編成はドラムス・ベース・ギターという伝統的なリズム・セクションにトランペット、サックス、トロンボーンのブラス・セクションを加えた形態を基本としている。

そのバンド形態は単に楽器の多彩さをもたらすだけでなく、音楽性の多彩さを与えることになったのじゃ。つまり、ブラス・セクションのメンバーにジャズ寄りなミュージシャンを起用したため、いわゆる「ロック」をルーツにするリズム・セクションのメンバーと刺激し合いながら、まさにロックとジャズが融合したような音楽を作ることが出来たのじゃ。

そのへんはBS&Tに続くChicagoと違う点で、Chicagoの場合ギタリストやキーボーディストに比べ、ブラス・セクション・メンバーの力量がちょっと劣っていたため、「ロック・バンドにブラスを入れた」音楽から踏み出せなかった。「ロック」対「ジャズ」でロックが勝ってしまったのじゃ。その点、BS&Tはギタリストがイマイチということもあって、「ロック」と「ジャズ」がいい案配に混じり合ったと言えるのではないだろうか。

もう少し無駄話を続けると、オリジナル・メンバーにはのちにブレッカー・ブラザーズを結成するランディ・ブレッカーがいて、「もっとジャズ寄りな演奏がしたい」と1枚目のアルバム完成後に脱退、伝説のバンド「ドリームス」を結成する。ランディの後釜的に加入したのが「マンハッタン・ジャズ・クインテット」などでお馴染みのルー・ソルフ。BS&Tの全盛期のメンバーとして活躍して「キャデラックに乗れるようになった」とのこと。

また、オリジナル・メンバーでドラマーのボビー・コロンビーはのちにCBSのプロデューサとなり、かのジャコ・パストリアスとパット・メセニーを引き合わせた。それが縁でジャコの初リーダーアルバムのプロデュースはボビー・コロンビーが担当した。また、メセニーの紹介で彼の生徒だったマイク・スターンが1976年頃BS&Tに在籍していた。

さらには1972年のほんの一時であったが、ジョー・ヘンダーソンも在籍していたらしい。

なんて、どうでもいい話はこれくらいにして、早速始めよう。

構成

印象的なイントロに続き、A−AーB−Aと唄った後、なんと4ビートになってトランペット・ソロになだれ込む。楽譜はトランペット・ソロの前まで、MIDIはトランペット・ソロの後まで収録してある。

ポイントその1

やはり絶対外せないのは、イントロだろう。1974年頃、日テレのワイドショーの1コーナーだった「テレビ三面記事」でこのイントロに続き「新聞によりますと〜」とナレーションが始まった。ちなみにこのコーナーが独立した番組になって、泉ピン子がブレイクした「ウィークエンダー」ではクインシー・ジョーンズの「アイアンサイド」が使われていた。

閑話休題。音使いを見るとこんな感じ。

「レ」からソ・ド・ファと完全4度づつ音を重ねた和音になっており、確かにインパクトあるサウンドじゃ。

ポイントその2

まあ、ポイントといっていいものかどうかちょっと疑問だが、ポップスでこんなにテンションが一杯の曲というのも珍しい。隠し味的にテンションを使う例はよくあるが、この曲みたいにのっけから、しかもAは全部テンションというのはやはり異質。

この曲の作曲はボーカリストでもあるDavid Clayton Thomasという、ソウルフルな「あんちゃん」なのだが、おそらく彼が作曲したときのイメージはもっとファンクというか、ストレートなものだったのではないだろうか。それをこんなに洗練されたサウンドにしたのはアレンジの勝利であり、その一翼を担っているのがこのテンション・サウンドと言えるじゃろう。

ちなみにこういうテンションを含むコードを弾くときは「3rd,7th,tension-note」の3音は外さないこと。逆に言うとこの3音だけで余計な音を弾かない方がよかったりする。もちろん、ルートはベースが弾いてるという前提じゃがね。

X7+9(シャープ・ナインス)は下から「3rd,7th,+9th」と弾く。つまり3rdと+9thをオクターブ近く離すのがツボ。よく考えると+9thっていうのはminor3rdと同じ音なわけで、オクターブ内で弾くとmajor3rdとぶつかってしまうんじゃ。

X713(サーティーンス)は下から「7th,3rd,13th」と弾く。

ポイントその3

それはビートじゃ。表面的には8ビート、つまり8分音符主体なんじゃが、「ノリ」としては16ビートなんじゃ。実は8ビートと16ビートの区別はなかなか難しくて、ドラムがハイハットで16分音符を刻みでもしていれば明らかに16ビートなんじゃが、基本は8分音符でたまに16分音符のアクセントが入る、みたいになると8ビートなのか16ビートなのかが曖昧になってくる。逆に言えばその曖昧さがカッコいいわけじゃが。

ちょっとAのアンサンブル譜を見てみよう。


しかもこの曲のように四分音符=98と比較的、ゆったり目のスピードで「ノル」のは、ちょっと相当猛烈に難しかったりする。1968年当時の日本人でどれくらいの人がノレていたのだろうか。

ポイントその4

そしてどうしても触れておかなければならないのが、中間部で聞かれるトランペット・ソロ。大体、ポップスでトランペット・ソロが出てくること自体、ビートルズの「ペニー・レイン」か、ミポリンの「You're My Only Shining Star」くらいしかないじゃろう。しかも4ビートで、ソロはジャズそのもの。ジャズ以外で8ビートや16ビートから4ビートに変わるなどというアレンジがアリなのだろうか。結果的にはアリだったんじゃが...いやはや、恐ろしい。

最後に

かなり古い曲を取り上げたが、いかがだったろうか。

実はわしはBS&Tは子供の頃から大好きで、わしの音楽の原点 はBS&Tにあると 言っても過言ではないくらいなんじゃ。まあ、そんな個人的 ないきさつを抜きにしても、 現在でも充分通用する、ユニークな音楽性を持っているとい う意味で、 ここで取り上げるに値すると思うんじゃが..

BS&Tのアルバムは以下の5枚が入手しやすい。

1.Child Is Father To The Man 1968年
2.Blood,Sweat & Tears 1969年
3.Blood,Sweat & Tears 3 1970年
4.Blood,Sweat & Tears 4 1971年

2が超オススメだが3も似た路線で、わしは大好き。1ではRandy Breckerのカッチョいいフリューゲルホーン・ソロが聴けて毛色はチト違うが、イケてる。4はイマイチかな?

ぜひ、みなさんもBlood,Sweat & Tearsを聞いてみましょう!

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