実録!ズージャでGO! 3月 その1

テーマ 曲の構成
Prince Albert

1.テーマのメロディ

ジャズではアドリブするためのコード進行だけが重要で、テーマのメロディなんかどうでもいい、と思われていた時期がありました。また、その当時の多くのジャズ・ミュージシャンは貧しく、既存の曲を演奏することによる著作権料支払いを嫌って、コード進行だけを借りて自分が作ったメロディを乗せてレコーディングした、なんて話がまことしやかに伝わっています。

確かにそういう側面もあったかもしれませんが、一方で古くさくて甘ったるいメロディに続いて、過激なアドリブを演奏することがそぐわないと感じて、自分らなりのテーマを作曲したのかもしれません。

チャーリー・パーカー様は「チェロキー」のコード進行がお気に入りで、楽器の調子を見るためのリハーサルでソロを吹きまくっています(Warming up A Riff)が、そのコード進行を元に作曲した「Ko Ko」では緊張感溢れるイントロに続けて「チェロキー」のメロディを弾いた途端に演奏を止めるというテイクが存在します。これをしたり顔の解説では「版権を考慮して中断した」なんて書いてますが、まあ、そういう面もあるでしょうし、当時のSPレコードという録音時間が4分くらいという制約から、より長くソロを吹きたいためテーマを止めたとかもあったでしょうが、何より、曲の雰囲気が変わりすぎるというのも理由の一つだったとぼくは思うのですが、皆さんはどうお考えでしょう。

前振りが長くなりましたが、この曲は実はお馴染みの「All The Thimgs You Are」のコード進行を借りて、ケニー・ドーハムが作曲した曲です。

2.イントロ

ジャズにおいてイントロが決まっている曲というのは滅多にありません。いわゆる「ジャズ・オリジナル」と呼ばれる、ジャズマンが作曲した曲の場合は、その作曲者の意図を尊重し、そのままイントロも演奏しますが、スタンダードに付いているイントロというのは、誰かが付けたイントロが優れものだったため、みんながマネして現在に継承されていることが多いでしょう。

ちなみにパーカー様は「Bird Of Paradise」という曲でこのイントロだけを演奏して、いきなりソロを始めています。

このイントロは超有名なので、基礎知識として身に付けておいて下さい。

なお、エンディングでもこれを使うのが定番です。テーマの最後2小節をクッてイントロ・パターンに入ります。

3.曲の構成

ジャズという音楽は近代音楽のいろんな要素を取り入れて発展させてきましたが、その中で忘れてきたというか、なおざりにしてきた要素もいくつかあります。その一つが曲のダイナミクスのコントロールだと考えます。どうしてもアドリブを最優先するため曲全体のダイナミクスは演奏者任せになっていたと思われます。ここでいう「ダイナミクス」とは単なる音の大小だけじゃなく、緊張感とかも含めた「盛り上がり度」と同等と考えて下さい。

前回、ソロの構成という話をしましたが、同じ原理が曲のダイナミクスにも通用します。平坦なダイナミクスは平凡な演奏になりがちで、聞いていても面白くありません。程ほどに山あり谷ありの方が聞いている人を惹きつけるでしょう。そう考えると、ジャズの定番である、テーマは2ビートで始めて、ソロを回して、ベースソロから4バース、あとテーマという進行が実に理に適っていることが分かります。曲の進行とダイナミクスをグラフにするとこんな感じかしら。

各人のソロが尻上がりになっているのは、段々盛り上がるという様を表しています。ソロイストが交代すると、多少なりともダイナミクスやテンションは一旦落ちるでしょうが、ソロをしていけばそれなりに盛り上がっていくでしょう。

さあ、ベースソロだけ急にダイナミクスが下がりますね。これは何故なんでしょう?

考えてみれば当たり前のことなんです。バンドのダイナミクスは各楽器の総和で考えることが出来ます。例えばサックス・ソロの最中のバンドのダイナミクスを表すとこうなります。

これがベースソロの場面では次のようになります。

この場合、ダイナミクスを単純な音の大小とだけ考えると何も見えません。音量・音数・音程がダイナミクスの要素だと考えれば理解できるでしょう。まあ、直感的にも分かりますね。ベースソロになれば、ドラムスはシンバル・レガートを止めるし、ピアノも音数が少なくなるし、そもそもホーンは音を出さないわけですから、必然的にダイナミクスが低くなるわけです。しかもベースは低音楽器です。

このベースソロの時間帯というのが、曲の中で大事なのです。決して、中休みと言っているわけではありませんが、この静かな時間があるからジャズは音楽として成立し得ていると言えるかもしれません。その意味で、ベース・ソロでちゃんとしたフレーズが弾けなくても構わない、ベースソロを挟むことが重要なんだと、ぼくが言ったことを理解して頂けると思います。逆に、ベースソロでも構わずシンバル・レガートを叩き続けることが、いかにアホなことかわかるでしょう?

この一旦、落ち着いた音楽をドラムスとの4バースで無理矢理引き上げる、というのも良くできた仕組みです。そしてあとテーマでちょっと落ち着いて曲を終わる、という構造になっているのです。

とはいえ、常にこういう構成が正解な訳ではありません。曲によっては盛り上がったまま終わりたい場合、ベースソロを挟むことによるダイナミクスの低下が似合わないこともありますし、あとテーマは2ビートに戻らずに、4ビートのまま突っ切ってしまいたいこともあるでしょう。

このように曲のダイナミクスを考えると、ソロ回しはどういう順番で、ベースソロはやろうかやるまいか、バースはどうしようか、あとテーマはどういう処理にしようか、ということを考えるときに役に立ちます。

何?、そんなこと考えたことなかった? ぼくはセッションの時でも常に考えていますよ〜。

3.参考演奏

テーマとは全然、関係ない選曲になってしましました。個人的にはあまり参考演奏として紹介したくはないのですが、これしかないので。テーマだけ参考にして下さい。この演奏ではサビをラテン・ビートにしていますが、ぼくらは普通に4ビートで通しましょう。

The Jazz Messengers
At The Cafe Bohemia Vol.1
Blue Note 1507
Hank Mobley tenor sax
Kenny Dorham trumpet
Horace Silver piano
Doug Watkins bass
Art Blakey drums
1955録音  

4.データ

この回で紹介したデータをまとめておきましょう。

 
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