2000年12月30日更新
タイトル・ロゴ第2部
これは千葉県浦安市に住む島袋 ひろ子(OL 25歳 仮名)が、一念発起しジャズ・ピアノを始め、上達していく物語である。
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第10話 いざ、本番!
〜本番前の練習〜
バンドの発表会を1週間後に控えた「ひろQ」最後の練習です。
ひろ子: 博士〜、いよいよ来週、本番ですね。人前で演奏するなんて、エレクトーンをやってた中学時代以来です。緊張しちゃいます。
五反田: 人前と言ったって、しょせん、「まつバンドの連中が殆どだし、今年は一般のお客さんやジャム・セッションに参加する人も何人かは来るだろうけれど、せいぜい全部合わせても6、70人くらいじゃろう。場所だって新宿のピット・インだし...
ひろ子: 博士、わざと緊張させようとしてませんか? 人が悪いですよ!

ところで発表会では何分くらい、何の曲をやるんでしょうか?

五反田: そうじゃな、今年も参加バンドが多いから、ひとバンド持ち時間20分くらい、曲は2曲が限度かな。

やっぱり年に一度の発表会だから、これまで練習してきた曲をやりたいし、少し見栄を張ってかっこいい曲を選びたいし、ひろ子ちゃんのピアノを大々的にフィーチャーしたいし...ん〜ん、難しいのう。

ひろ子: わたしのピアノは特にフィーチャーしなくてもいいですけど、アンサンブルがピチッと決まる曲が良いですね。やっぱり「One By One」(第2部第6話収録)でしょうか?
五反田: そうじゃな、そしてもう1曲はひろ子ちゃんのピアノで始まり、2管とピアノの掛け合いがある「Take The A Train」(第2部第4話収録)にしよう。
ひろ子: どちらもピアノのイントロから始まるじゃないですか! 特に「Take The A Train」はイントロを一人で弾くんですよ〜! もし間違っちゃったらどうしましょ。
五反田: 間違ったらやり直せばいいんじゃよ。そんなに固くならずに気楽にしなさい。
ひろ子: そうは言っても...博士!、本番で緊張しないようにするにはどうすればいいんでしょうね。
五反田: 「緊張する・しない」というか、上がっちゃってアタマの中が真っ白になったり、余計な力が入っちゃって普段の実力が出せないことが問題なんじゃ。

よく「リラックスしよう、力を抜こう」ということばかりに気を取られてしまい、本当に力のこもっていない演奏をしてしまうことがある。それはやはり間違いで、人前で演奏するという事自体、多少の緊張感はあって当然だし、テンションも上がらなければいい演奏なんてできないもんじゃ。

要は余裕を持って、力を入れるところ・抜くところを自在にコントロールすることが大事なんじゃ。

ひろ子: は、はい...
五反田:

このへんはスポーツなんかでも同じで、例えばカール・ルイスが100mを走っているときのスロー・モーションを見ると、ほっぺたに力が入ってなくてたぷたぷしてるじゃろう。全速力で走ってるのに顔には余計な力が入っていない、考えてみればこれは凄いことじゃ。

この「力の抜き方」というのは人それぞれで方法があるんじゃろうが、永遠の課題かもしれん。

例えばわしの知り合いのドラマーなんじゃが、本番前に練習台を力んで力んで叩いておるんじゃ。わしが「どうしてそんなに力を入れて叩くんじゃ?」と訊くと、「本番前に力んでおかないと本番で余計な力が入っちゃうから」と言っておった。いろんな方法があるもんじゃ。

ひろ子: わたしも力一杯、音階練習でもして余計な力を抜こうかしら。
五反田: さて、今日は本番前の最後の練習じゃから、1曲ずつポイントポイントをおさらいしながら演奏していって、最後に2曲続けて演奏してみようか。

本番では「One By One」、「Take The A Train」の順に演奏しようと思う。だから練習もその順番にやっていこう。

ひろ子: ハイ!、じゃあ、まずは「One By One」から。構成は「イントロ−テーマ−テナーソロ−トランペットソロ−ピアノソロ−あとテーマ」ですね。こんな風に改めて構成を確認しておくことは大事ですね。
五反田: そうじゃな、「この曲は4バースをやるんだったけ?」とか「どうやってテーマに戻るんだっけ?」なんてこと考えながらじゃ、パニックになるモトじゃからな。
ひろ子: あとこの曲で重要なのは「ダイナミクス」! 特にAの最初4小節と次の4小節でくっきり音量を変えるんですよね。

あと、意外に難しいのがイントロ。

五反田: こういう休符が多いフレーズを演奏すると本当の「リズム感」というか音楽性が試されるんじゃ。

コツとしては音やビートを点として捉えるのではなく、長さのある線として考えることじゃ。

ひろ子: 「点」じゃなく「線」ですか?
五反田: そうじゃ、このイントロを点として考えるとこんな図になるじゃろう。

この一つ一つの「点」に音を置くような感覚で演奏するのは極めて難しい。勘と気合いの問題になってしまう。

それを1拍や1拍半といったビートの長さをきちんと意識して演奏すれば、自然と音の出だしも合うものじゃ。

ひろ子: そういうものでしょうか? このイントロの場合、音符を伸ばすというよりスタッカート気味に弾くので、ちょっと判りづらいのですが...
五反田: ん?そういえばそうじゃな(-_-;)。

例えばこの曲だとどうだろう。ハンコックくんの「Maiden Voyage」じゃ。

ひろ子: これもリズムが難しい曲ですが、確かに博士の言うとおり、音符の長さを意識すれば多少、やりやすくなるような気がします。
五反田: そうじゃろう、そうじゃろう(ほっ)。まあ、「One By One」のイントロの場合は休符を意識して弾く方が判りやすいかな。
ひろ子: 「タン、タン、ンタン、タン、ン−、タン、タン」みたいに弾くんですね。
五反田: まあ、このへんは方法論の問題になってくるが、さっき言った「ビートは点じゃなく線である」というのは重要だから、くれぐれも忘れないようにね。

それじゃあ、「One By One」をやってみよう。

「One By One」を練習する。
五反田: さて、次は「Take The A Train」じゃ。この曲はピアノのイントロからテーマ、トランペットソロ、テナーそろ、ピアノソロと進んでひろ子くんのアイコンタクトでセカンド・リフとピアノの掛け合いをやって、テーマに戻るんじゃったな。
ひろ子: 本番でピアノが離れて置いてあったらどうしましょう? アイコンタクトしてもみんなに見えないかも...
五反田: 大丈夫じゃよ。そういうときはステージ上を歩くことが出来る、フロント、トランペットかサックスがピアノのそばに行ってあげるから。わしらからみんなに伝えればいい。
ひろ子: アイコンタクトをリレーするわけですね。よかったあ。
五反田: では「Take The A Train」を演奏しましょう。
「Take The A Train」を練習する。
五反田: もうひとつ、本番前にやっておくと良いことを教えよう。

「上がってしまう」理由の一つとして自分が想定していないことや予想外の出来事にあわててしまう、という面があると思うんじゃ。そうしたらいいか、何をしたらいいかが判らなくなってしまうというか...

そんなときに有効なのがイメージ・トレーニングじゃ。

ひろ子: イメージ・トレーニング? よくオリンピック選手なんかがやるヤツのことですか?
五反田: そうじゃ、例えばマラソン選手が自分が走っているのを想像しながら、「この角を曲がったら上り坂だ」とか「ここでサングラスを取ってスパート!」とか、レースをシミュレーションするじゃろう。あれと同じことをやるんじゃ。

曲の最初から最後まで頭の中でイメージしてみるんじゃ。

ひろ子: 楽器を弾かずにですか?
五反田: そうじゃ、楽器を弾いてしまうとどうしても現実の世界に戻ってしまうからな。あくまでもイメージの中で自由に想像すること。
ひろ子: テーマのアンサンブルをイメージすることはまだ出来そうですが、アドリブまでは...
五反田: アドリブもイメージするんじゃ。「最初のソロはトランペットでこんなフレーズから始まって、こんな風に展開して、だからピアノではこういうバッキングをして...」という具合に。
ひろ子: 難しそう! そうすると自分のアドリブもイメージするわけですよね?
五反田:

もちろん! 「こんな感じでソロを始めて、2コーラス目ではちょっと盛り上げて」なんて想像するんじゃ。イメージの中ではチック・コリアも真っ青なソロを弾けるかもしれんよ。

ひろ子: 博士が「アドリブの構成(第1部第4話)」で言ってたことですよね。

でも、それって、「事前にアドリブ・ソロを作りなさい」って言ってるわけじゃないんですよね?

五反田: ん〜ん、そうでもないぞ。別に作ったソロを弾いても良いんじゃないか? 全部を作っちゃっても良いし、ポイントポイントを考えておいても良いし。もちろん、全部、その場の勢いで演奏しちゃっても良いし。
ひろ子: そんないい加減な...(-_-;)

まあ、漠然と演奏するのではなく、とにかく何らかのイメージを持って演奏しなさいということですね。

五反田: もちろん自分がイメージしたとおりに演奏できる保証はないし、むしろその通りに行かないことの方が圧倒的に多いんじゃが、事前にイメージしておくことで、そんなにあわてなくて済むというか、軌道修正が素早くできると思うんじゃ。
ひろ子: はい、わかりました。なんとかイメージしてみます。
五反田: 練習ではウォーミング・アップの曲があったり、同じ曲を何回か続けて演奏して調子が出てきたりするけれど、本番は一発勝負じゃろう? いきなり何の準備もなく演奏して、良い演奏をしろという方が難しい。

その意味でも本番直前にあたかも楽器を演奏してるかのようにイメージ・トレーニングして、テンションを上げておくのも重要なんじゃ。

ひろ子: イメージ・トレーニングには「緊張しないため」と「体を温めるため」の二つの役割があるんですね。

あと、何か気を付けることとかありますか?

五反田: そうじゃな、これまでの練習でも言ってきたことじゃが、曲のテンポはあらかじめ決めておくこと。そしてメトロノームなどでそのテンポを出してから演奏すること。
ひろ子: テンションがあがってると、ついついテンポを早くカウント出しちゃいますからね。
五反田: あとは、やっぱり本番に向けて体調を整えておくこと。前の日に飲み過ぎたりしちゃいかんぞう!
ひろ子: それは博士が気を付けてくださいね。

さて、今回のカラオケは何にしましょうか?

五反田: 来年、「ひろQ」でやろうと思ってる、Horace Silverの「Gregory I Here」を取り上げよう。
ひろ子: それってHorace Silverの「In Pursuit Of The 27th Man(BN-LA 054F)(1972年)に収録されてる曲ですね。でもそのアルバムってCD化されてないと思うんですが...
五反田: 確かにそのアルバムはCD化されていないが、ホレス・シルバーのベスト盤「The Best Of Horace Silver Volume Two」には収録されておるぞ。

さらにはJameyのVolume 17 "Horace Silver"にも入っておる。

ひろ子: それじゃあ、お聞き下さい。Horace Silverの「Gregory Is Here」で〜す。

第2部「バンドをやろう」はこれにて終了です。みなさんもバンドをやりましょう!
おわり
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五反田博士のよくわかる解説

まつバンド
ひろ子や五反田が所属する社会人ジャズ・サークル。ホームページでメンバー募集もしている、ってみんなもう知ってるね。
http://matsuband.exblog.jp/

場所だって新宿のピット・インだし
まつバンドの発表会は「忘年会」という名目で本当に新宿のピット・インで行っています。12月第2土曜日の昼12時からです。もちろん、貸し切りですけどね。

In Pursuit Of The 27th Man
ブルーノート・レコードの末期のアルバム。ブレッカー・ブラザーズが揃って参加。ダウンビート誌で5つ星を獲得したのに、未だにCD化されないのはなぜ?

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