1998年 9月29日更新
タイトル・ロゴ第1部
これは千葉県浦安市に住む島袋 ひろ子(OL 25歳 仮名)が、一念発起しジャズ・ピアノを始め、上達していく物語である。
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第8話 やっぱり基礎が大事? 
〜基礎練習も楽しく〜
シーケンサーを使って練習する方法を教わったひろ子はブルース以外の曲にも挑戦したくなりました。
ひろ子: 博士! ブルース以外の曲も弾いてみたいんですけど。
五反田: おう、そうじゃな。何もストイックにブルースばかり弾いていてもつまらんしな。

簡単なスタンダードでもやってみようか?

ひろ子: ブルースとスタンダードでは演奏方法は違うんですか?
五反田: 演奏方法や考え方は全く変わらない。ただ、ブルースはそのサウンドやコード進行を誰でも知っているので、それをバックグラウンドとして演奏する事が出来るのじゃ。

もっと、分かり易く言うと、ブルースでは「次はこうだな、こう演奏するんだろうな」という前提で聴く人も一緒に演奏してる仲間も思っている。そんな中では多少、変わったフレーズや違うサウンドを弾いてもみんなが付いて来てくれる。その分、いろいろと冒険が出来る訳じゃ。

むしろ、ブルースの場合は「どんな風にみんなの期待を裏切ってくれるんだろうというのがポイントかもしれん。「ブルースはジャズマンの履歴書」みたいなもんでな。その人がどういう演奏をするのかはブルースを演奏させてみればわかったりするもんじゃ。

ひろ子: その点、スタンダードではそんなに冒険は出来ないということですね。
五反田: スタンダードではブルースと違い、どうしても曲のイメージやコード進行にある程度は忠実に演奏せざるを得ないんじゃ。かといって、ブルースとそれ以外の曲とに変な敷居を作るのはよくないぞ。

むしろ、ブルースで学んだ「細かいコード進行にとらわれない大きな流れのフレーズ」をスタンダードで試してみたり、スタンダードのコード進行に忠実な演奏をブルースの中で応用してみたり、そういう自由な発想がジャズでは一番大切なんじゃ。

ひろ子: 学んだことをフィードバックするんですね。
五反田: いいことを言うね。フィードバックといってもジミヘンのことじゃないぞ。
ひろ子: でも、そうするとやっぱりコードのこととかを勉強しないと駄目なんですね。
五反田: 残念ながら、そうなんじゃ。でも、基本はブルースと同じだぞ。曲の流れを掴むためにベース・ラインを自分の楽器で何回も弾いてみて、そうする中で湧いてきたメロディーを弾くんじゃ。

「I'll Open Your Eyes(?!)」という曲がある。ちょっと佐久間くん、ベース・ラインを演奏してみてくれ。

ひろ子: あ〜あっ!、キーがFで、D7のコードがありますね。ブルースのときに教わったコードですよね。
五反田: ブルースの時はD7がキモって言ったんだっけな。この曲ではもちろん、D7もポイントだが、それ以外にもいっぱいポイントはある。Em7−5、A7、Dm7のところやCm7、F7、Bbmaj7のところや、さらにはBm7-5,E7のところなど...

まあ、いつかはその辺のところも説明しなきゃいかんな。

ひろ子: それにしても、今度のベースラインはなんだか、とっても難しそう!
五反田: ん〜ん、そうだな。佐久間くん、もうちょっと基本的なラインでやってみてくれんかね。

ひろ子: これなら何とかなりそうです。それにしてもいろんなベース・ラインが出来るんですね。
五反田: ベーシストはベース・ラインで毎コーラス、アドリブしてるようなもんじゃからな。ソロの盛り上がり具合や曲全体の構成を考えて臨機応変にラインを組み立てていかなきゃならんのじゃ。
ひろ子: ブルースの時と比べていっぱい、コードが出てきますよね? こういうコードをマスターするにはどうしたらいいんでしょう?
五反田: 地道に練習するしかないんじゃが、ただ黙々と練習してばかりでもつまらんから、こんな風に曲のコード進行に沿って、カラオケに合わせてアルペジオ(分散和音)の練習もするといい。

ひろ子: アルペジオって、コード(和音)の音をひとつづつ弾くことですよね。音符の下の数字は何の意味ですか?
五反田: コードの構成音を数字で表しておるんじゃ。ピンと来なければ今のところは無視してもいいぞ。これはコードのルートの音から上っていくアルペジオだったが、逆に高いほうから下ってくるアルペジオ練習も必要じゃ。

これらを組み合わせて上ったり下ったりしてみると、ちょっとは音楽らしくなる。

おんなじ要領でスケール練習も出来るんじゃ。

ひろ子: スケールって、音階のことですね。ジャズのスケールって難しいと聞いたんですが...
五反田: 確かにやさしくはないが、「スケールを覚える」みたいな感覚じゃなく、全体のサウンドの流れで自然な音を繋げていくとスケールになるという感じで練習するといい。スケールといったって、そんなに特殊な音使いをするわけではないからな。こんな感じじゃ。

まあ、スケールといってもいろいろあって、ここにあげたのが唯一というわけではない。ここでは6小節目のG7は無視してDm7のスケールを続けているし、8小節目のF7や何回か出てくるC7ではこんなスケールも当てはまる。

ひろ子: それぞれのスケールに名前があるんですよね? 全部おぼえるのは大変だなあ...
五反田: だから、ひろ子ちゃん! スケールを覚えようなんて思わずに全体の流れに乗って自然に音をつなげていくんじゃよ! スケールの名前なんてどうでもいい!

とにかく、「はじめにスケールありき」なんて発想は持たないこと。スケールの音を拾ってフレーズを作ろうなんていう考えは間違いじゃ。あくまでフレーズというか「唄」があって、それがたまたまあるスケールの音だったということ。それを決してはき違えないようにしなさい。

ひろ子: わかりました。でも、こういう練習をするときには前回に教えてもらった「シーケンサー」があると、伴奏してもらいながら練習が出来て便利ですね。
五反田: そうじゃ、こんな練習にバンドのメンバーを使うわけにもいかんしな。伴奏なしだと練習もつまらんし。

でも、このアルペジオやスケールの練習は楽器を弾く人間は一生、やり続けなければいけないものなんじゃ。一度やったからそれでおしまい、というようなものではない。

ひろ子: やっぱり基礎は大事なんですね。わたしも練習しなくっちゃ。
五反田: これでひろ子ちゃんもひと通り、ジャズのことは学んだじゃろう。

音楽は頭でっかちにならずに、とにかく演奏してみることじゃ、それも仲間と一緒に。へただから弾けないとか、もっと練習してから演奏するとか、ごちゃごちゃ言っとらんでどんどん積極的にセッションするべきじゃ。

ひろ子: わ、わかりました! じゃあ、「I'll Close My Eyes」を一緒にセッションしてください。
五反田: よおし! それじゃあ、やってみよう!

みなさんもどんどん演奏しましょう! では、また。
おわり
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五反田博士のよくわかる解説

マトリックス
マトリックスの例を出すまでもなく、変なブルースやブルースらしくないブルースは山ほど、存在する。「実はこれはブルースなんだよ!」と言って、「え! 全然、気が付かなかった」なんて言われるととっても楽しいもんじゃよ。

ベースライン
ベースラインがこんな風に都合良く登場しない方はどうしたらいいのか。そういう場合はベーシストに「ちょっと弾いてみて」と頼んでそれをテープにでも録音して、コピーすればいい。ん? ベーシストもいない場合はどうするかって? そういうときには「まつバンド」に参加するのが一番です。

Dm7
Em7-5,A7,Dm7はFの関係調であるDm7への転調。でも今時こんなのを転調というやつもおらんかのう。

Bbmaj7
Cm7,F7,Bbmaj7はFの4度上であるBbへの転調。でもこれもあんまり転調というニュアンスではないのう。

Bm7-5,E7
Bm7-5,E7はAm7への転調。一時的に曲の終わりを延期するようなコード進行。G7なんかを使う曲もあるぞ。

黙々と
黙々と練習するのはつまらんが、とってもためになることも事実じゃ。こういう地道な努力を続けることが上達の早道ではあるが、大抵の人はここで根気が尽きてしまう。また、単に機械的に基本練習をしても、長く練習したわりには上達に結びつかない。それを補う意味でもここで紹介した練習法は有効だ。

数字
音符の上の数字はそれぞれのコード(スケール)上の順番を表している。1はコードのルート、3は3度、5は5度..といった具合に。これがアルペジオの場合なら簡単だが、スケールの場合、ちょっと複雑だ。2と9をどう区別するかがむずかしいからじゃ。ここではオルタード・テンション以外は2とか4で表記している。

ここで使ってるスケール
賢明な方はすぐにわかると思うが、通常の7thコードには「ミクソリディアン」を、オルタード系の7thコードには「ハーモニック・マイナー・パーフェクト5thダウン」を使用している。
あ〜あ、でもなんでこんな名前なんだろう。単にハーモニック・マイナーを5番目から始める、と言うんじゃいかんのだろうか? って、あんまり変わんないか...

こんなスケール
いわゆるオルタード・スケールを紹介する理論書も多いが、ここではあえて「ハーモニック・マイナー・パーフェクト5thダウン」を紹介している。オルタード・スケールは単にオルタード・テンションの寄せ集めで、スケール、つまり音階としては成立していないと思うのじゃ。ならばいっそ、コンディミの方が音階として成り立つ。

スケール
決してスケールそのものを軽んじているわけではないぞ。例えば「Em7-5,A7,Dm7,G7」をDmとして大きく捉える、みたいな場面ではスケール的なアプローチは非常に有効だ。許せないのは「Fmaj7はF-Ionian、Gm7はG-Dorian」みたいに解説する、いわゆる「Available Note Scale」というやつじゃ。単なる「ドレミファソラシド」じゃないか。あんなのは何の意味もない!

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