1998年 9月 6日更新
タイトル・ロゴ第1部
これは千葉県浦安市に住む島袋 ひろ子(OL 25歳 仮名)が、一念発起しジャズ・ピアノを始め、上達していく物語である。
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第2話 楽器を買いに行こう!
〜楽器選びのポイント〜
ひろ子は五反田博士に基本的なジャズの曲構造を解説してもらって何となく解ったような気になってきた。

久しぶりにエレクトーンを弾こうと思ったら楽器が壊れていた。そこで楽器を買おうと博士に相談することに。

ひろ子: 家にはエレクトーンしかなくて、しかも壊れてて音が出ないんです。

何か鍵盤楽器を買おうと思ってるんですけど、どんなのがいいんでしょう?

五反田: だんだん、本気になってきおったのぉ。「どんな楽器を買うか」というのは、実は楽器上達の上で非常に重要なポイントなんじゃよ。

「パーカーは楽器を選ばず」という諺はあるが、あれはごくごく一部の達人の話であって、やはり普通の人はいい楽器を持てばそれだけ上達も早いのじゃよ。

ひろ子: じゃあ、ピアノだとやっぱりグランド・ピアノを買わなきゃだめとか...
五反田: 理想としてはそうじゃ、そんなわけにはいかんじゃろうが。

それともうひとつ、楽器を買いに行くときには誰かその楽器に詳しい人と一緒に行くことじゃ。ズブの素人がノコノコ買いに行ったところで楽器屋の「思うつぼ子ちゃん」になるだけじゃ。

ひろ子: グランド・ピアノが買えない私は、どうすればいいですか?
五反田: よし、それじゃあ、楽器別に具体的に考えてみよう。

まず、ピアノから。(他の楽器はこちら

基本は生ピアノ。グランドは無理としてもアップ・ライトなら家にある人もいるじゃろう。本物の楽器という意味ではこれに尽きる。(きっぱり)

夜中でも練習したい人はヤマハのサイレント・ピアノがいいじゃろう。

ひろ子: 博士! アップライトでもサイレント・ピアノでも重さが250Kg近くあるんですよ! 補強工事しなきゃ一戸建ての家でも床が抜けちゃいます。ましてや、マンションの場合には...
五反田: わかっとる、わかっとる。ここからが本番じゃ。生ピアノが無理なら、お次は電子ピアノじゃ。クラビノーバでもローランドのデジタル・ピアノでもコルグのコンサート・シリーズでも何でもいいけど、ポイントは以下の通り。
  • 88鍵であること。
  • 出来るだけ本物のピアノにタッチが近いこと
  • 鍵盤と本体が一体になっていること。キーボード・スタンドに乗せるタイプは、弾くたびに楽器がぐらついちゃって、駄目。
  • 自動伴奏機能やいろんな音色が出なくても問題ないけど、MIDI対応であること。
ひろ子: シンセサイザーとかじゃ駄目なんですか?
五反田: 一般のシンセサイザーでは鍵盤のタッチが違いすぎるし、88鍵じゃない。たまに88鍵でピアノ・タッチのシンセサイザーもあるが、キーボード・スタンドに乗せる形になって、不安定でいかん。

同じ鍵盤楽器でもピアノとオルガン、シンセサイザーは全く違う楽器と認識すべきじゃ

厳密には電子ピアノでも生ピアノとは「違う楽器」ではあるが、その差がまあ許せる範囲であるということなんじゃよ。

ひろ子: なぜ、それほどタッチが重要なんですか?
五反田: これはまた後日、話すが、音楽のノリに関係してくるんじゃ。
ひろ子: それと最後の「MIDI」って何のことですか?
五反田: これも後日、説明するが、電子ピアノならではの機能なんじゃ。これを使わない手はない。
ひろ子: で、楽器屋さんには博士が一緒に行ってくれるんですよね?
五反田: わしでよければ喜んでお供させて頂こう。じゃあ、楽器屋に行ったあと、うまいものでも食って、ホテルのラウンジあたりでしっぽりと、ムフフフ。
ひろ子: 博士!スケベおやじ入ってますよ!

ひろ子、ピアノを弾く図

ピアノ以外の楽器についても、楽器選びの勘どころを「まつバンド」の面々に聞いてみた。

サックストランペットベースドラムスギター

五反田: サックスについてはわしが担当しよう。

まず、アルトかテナーかという問題があるな。これは全く、個人的な趣味で選んでいいと思う。ケニーGが好きならアルトにすればいいし、コルトレーンが好きならテナーという具合に。

ただ、いろんな人の例から見ると、アルトで始めてテナーに転向するパターンが多いな。ジョン・コルトレーンや佐藤 達哉くん、わしもそうじゃ。

ひろ子: まっすぐなサックスとかバカでかいサックスとかもあるじゃないですか。あれはジャズに向かないんですか?
五反田: ジャズ・コンボでは確かにあまり使われんな。でもビッグ・バンドなどには欠かせない。

ただ、それ以上にソプラノやバリトンはむずかしいということは知っておいてもらいたい。初心者が扱うにはアルトやテナーの方が、構造的にも音域的にも習得しやすい。ソプラノ、バリトンは値段も高いしね。

ひろ子: メーカーはここがいい! とかはあるんですか?
五反田: プロの連中はほぼ例外なく、セルマーというメーカーのものを使っておる。じゃが、アマチュアならヤマハ、ヤナギサワなどの国産メーカーでも十分だ。

セルマーが一番高価でアルトもテナーも30万円ぐらい。銀メッキだともちょっと高い。金メッキに至っては「時価」じゃ。

サックスの場合、サックス本体以外にマウスピース、リードといったものも必要だ。これらは人それぞれの向き・不向き、相性、趣味があるので、一概には言えないんじゃ。まあ、マウスピースはサックスに付いてきたやつをしばらく使って、慣れてきたら買い換えるというのがいいかな。

ひろ子: サックスって、どこに売ってるんですか?
五反田: 大きな楽器屋ならどこでも売ってるじゃろうが、東京近辺の人なら新大久保の「石森楽器」に一度、行ってみるといい。修理やメンテナンスもばっちりじゃ。通信販売もやってたかな。
ひろ子: ちなみに博士のはどんな楽器なんですか? お値段とか...
五反田: わしのはアメリカ・セルマー(通称、アメセル)のマーク6の製造番号が12万番台を中古で68万円じゃ。
ひろ子: え〜〜え! 中古なのにそんなに高いんですかあ?
五反田: サックスの場合、新品より昔の楽器の方がジャズ向きとされているんじゃ。実際に音色も違うし。ところが昔の楽器は当然ながら作っていないから、中古でしか手に入らない。だから新品より中古の方が値段が高いんじゃ。
ひろ子: じゃあ、初心者も最初から中古の楽器を買っちゃえば、いいんじゃないですか?
五反田: それは断固としていかん!

わしの楽器のような「ヴィンティージ・サックス」は世界中に限られた本数しかないんじゃ。いわば人類の遺産と言ってもいい。それを初心者が使って、楽器を駄目にでもしてしまったら大変じゃ。ある程度、上達してからでなければ「ヴィンティージ・サックス」を買ってはならん!

確かに安い中古品もあるが、そういうのは状態が悪かったりするわけで、それなら新品のほうがいいのじゃよ。

  トランペット
ひろ子: それじゃあ、トランペットはどうですか?
五反田: トランペットは津国くんに聞いてみよう。
津国: やっぱり、さっき博士が言った通り、楽器屋に行く時は、ちゃんとトランペットを吹ける人に付き添ってもらうのが大原則です。

自分で吹いてみるのはもちろんですが、付き添いの人にも吹いてもらって、自分のイメージに近い音(パリパリと軽く鳴る、豊潤な響きがする、明るい、暗い等)が出ている楽器を選ぶのがいいかもしれません。でも、自分で音を出すとほとんどの場合、他の人とは全く違う音が出るので、あくまで参考程度にしてください。

お店は試奏スペースのある管楽器専門店で買うべきです。リペアマン(修理をする人)がいるお店なら、簡単な調整などをその場でやってもらえるし、買ったあとのメンテナンスにも便利ですしね。

ひろ子: お値段は、いか程なんでしょう?
津国: 大丈夫、サックスほど高くはありませんから。(笑)

まあ、値段だけでは何とも言えませんが、例えばヤマハの新品で10万円前後の楽器なら作りもしっかりしていますので、この辺を目安にすればいいと思います。海外のメーカー、バック、マーチンといったところなら、だいたいどの価格帯でも大丈夫です。

但し、あまり極端に安い楽器は注意してくださいね。安いなりの楽器ですから。

五反田: トランペットの中古品事情はどんな感じなんじゃね。
津国: サックスのように「プロはみんなオールド」っていうことはないですが、オールドを使ってる人は多いですね。。

でも初心者は中古は避けた方がいいです。安い中古はどこかしら難があるものですから...

逆にそこそこの値段が付く中古を買うなら、もう少し奮発して新品を自分なりに吹き込んでいった方が結局トクです。

ひろ子: トランペットって思った以上に色々、種類があるじゃないですか。具体的に初心者にはこういう楽器が向いてる、みたいなポイントはあるんですか?
津国: 初心者に限った話ではないですが、ジャズ・コンボではキー(調子)は絶対にB♭のものを選んで下さい。その他、細かい点をいくつかあげるとすると...
 
仕上げについて
ラッカーにするかシルバーにするか、外観上や音色の好みにもよりますが、音作りの自由度が高いという点ではラッカーがよいでしょう。ラッカーは基本的にいかにもトランペットらしい明るい音ですが、ダークに鳴らす技術も身につけることが出来ます。逆にシルバーですとダークな音色。これを明るく鳴らすには、奏法上の負担を強いられる場合が多くなり、楽器の特性をねじ伏せて無理をして吹くと悪い癖が付いてしまいます。自分にとって素直に鳴らすことが出来るものがよいでしょう。
ベル
なるべくイエロー・ブラスのものを選んで下さい。俗に赤ベルなどと呼ばれるレッド・ブラス等の銅の含有率の高いものは、柔らかく気品のある響きが得られますが、初心者には鳴りが悪く、物足りなく感じられることがあるようです。またレッドや銅100%のコパーはベルが重いため、初心者は楽器が下がり気味になりアンブシュアを崩す原因にもなります。
ボア・サイズ
抜き差し管の内径のことですが、中位のものがよいでしょう。小さいと抵抗感が大きく抜けが悪くなり、逆に大きすぎると抜けはよいですが、エアをたくさん取られるためすぐにバテてしまいます。
ピストン
可動部分の動きが渋くないものを。メーカー品である程度の値段のものはまず大丈夫ですが、一応動くところはすべて動かして下さい。ピストンを上下してみて摩擦音が出るものや、1、3のスライドに引っかかりがあるもの、抜き差しを抜いて入れるのに難儀するものはやめましょう。
五反田: マウスピースについては何かあるかね?
津国: 最初は楽器に付属しているもので十分でしょう。トランペットのマウスピースは安価なので、音が出るようになってからあれこれ楽しんで考えるのがいいと思います。

マウスピースの選ぶ目安としては、例えばバックのサイズで言うなら7Cよりカップが小さいもの、リム幅広めでエッジのきつくないものを選ぶといいでしょう。バックの8ハーフ(1/2)C、10ハーフ(1/2)Cなどは値段も手頃でお薦めですよ。

ひろ子: さすが、津国さん! レコードだけじゃなくてトランペットも詳しいんですね。まるで、トランペット奏者みたい。
津国: (いや、あの、実はトランペット奏者なんだけど...)

まあ、トランペットはサックス等と違って維持費がほとんどかかりません。楽器とマウスピース以外に必要な物は、バルブ・オイルとスライド・グリスぐらいです。しかも楽器本体の価格も特殊なモデルでもない限り、割と買い求めやすい価格と言えるでしょう。

さらによほど乱暴に扱わなければ壊れることもなく、修理代もかかりません。ですからその分、色々なマウスピースを試したり、積極的に楽器の買い換えをしながら、自分にピッタリの物を探して長く使うことをおすすめします。

  ベース
五反田: ベースは関くんにお願いしよう。
関: ヨーロッパ製の新品だと80万円します。それ以下の値段の楽器は使いものになりませんね。
ひろ子: え〜! そんなに高いんですか? ベースって!
関: 80万でもいい楽器もあれば、悪いのもあります。1本、1本、出来が違うから、実際に弾き較べてみないと選べません。
五反田: それこそ、ベースに詳しい人と一緒に買いにいかなけりゃ、とんでもないものを掴まされることになるのじゃな。
関: そうです、絶対にちゃんとベースを知ってる人と買いに行ってください。ベースの善し悪しなんて素人にはわかりません。
ひろ子: ところで、関さんは、どこでベースを勉強したんですか?
関: 先生に付いて習っています。やっぱり、ベースは基礎が大事ですから、
ひろ子: そこでどういうことを教わってるんですか? かっちょいい、ソロのフレイズとかを教わってるんですか?
関: いいえ、ほとんど基礎的なことばっかりです。1時間、アルコ(弓弾き)で音階練習とか。
ひろ子: ジャズでは弓なんてほとんど使わないんじゃないですか?
関: 演奏ではぼくもほとんど使いませんが、基礎練習に弓弾きは欠かせないんですよ、音程・運指・ノリなどの面で。
五反田: ところで、関くん、サイレント・ベースというのがあるじゃろう。あれはどうなんじゃ?
関: ウッド・ベースとは違う楽器と思った方がいいですね。自宅の練習用にサイレント・ベースを持ってる人もいますが、あまり練習にはなりません。
ひろ子: Webサイトはあんまり見つからなかったんですけど、「弦楽器の山本」さん「アトリエ・ハシモト」さんのサイトが見つかりました。
五反田: ところで、関の使ってる楽器はいくらだったんだっけ?
関: ぼくの楽器は50万円です。
ひろ子: ??!●△■×?!!...
  ドラムス
五反田: ドラムはどうなんじゃ、青野くん。
青野: ドラムはスティックとブラシだけ買えばええんですよ。
五反田: 確かにドラム・セットを置けるような家は、金子ちゃんや横尾ちゃんの家ぐらいだしな。練習スタジオにドラム・セットを持ち込むのも大変じゃ。

でも、スネアとかバスドラのペダルとかは自分の楽器を使う人もいるんじゃないかのお。

青野: 理想を言えば普通の人はスネア、キック、シンバル(ライド)をそろえてスタジオに持ち込んで練習がいいかな(重いけど)。
貧乏な人はスティックとブラシだけ買えばええんですよ。そりゃワシじゃ(笑)。
ひろ子: 練習台とかは要らないんですか?
青野: 確かにあれば便利だけど、練習台も実際に叩くと結構、音が出るしね。真夜中はとても練習できないよお。
それに安いやつはスネアとの感触が結構ちがうので、必死こいて練習したかっこええ手順がパーになることがたまに本番で発生します。
五反田: サイレント・ドラムみたいのがあるじゃろお。あれはどうなんじゃ?
青野: サイレント・ベースと同じで、似てるけど違う楽器と思った方がええですよ。サイレント・ベースより違う楽器かもしれへん。叩く感触、音の切れ、ダイナミクスとかは全く違う。
でも練習してるときは快感ですわ。やめられまへん。
ひろ子: メーカーのサイトだけは紹介しときましょう。ヤマハパールTAMALUDWIGZildjianは見つけました。
  ギター
五反田: 最後になったが、ギターはどんなもんじゃ、香津美くん。
香津美: そうですね、演奏したい音楽によって選ぶ楽器も違ってくるけど、まじめにジャズを始めるなら「フル・アコ」と呼ばれる、タイプがいいでしょうね。それに太めの弦を張ってず太い音色を出せば、なんとなく格好がつきます。
五反田: リー・リトナーの真っ赤な335マイク・スターンテレキャスとかはいかんのかね?
香津美: いけないことはありません、十分に「あり」です。ただ、そういったギターをジャム・セッションなんかに持って行くと、「こいつ、デキルな!」と思われちゃうわけです。いわゆる伝統的な「ジャズ・ギター」を超えたことをやりそうだぞっ、とね。それなのにたとえ上手くても、普通のことしか出来なかったりすると、「なんだ、こいつイモじゃん」となっちゃう。
ひろ子: 見た目で判断されちゃうんですね。
香津美: それ以外にも、いわゆる「ジャズ・ギター奏法」をマスターする上でも断然、フル・アコがいいです。セミ・アコやソリッドはその応用編と考えたらいいでしょう。
五反田: そういえば昔、当時大学1年生だった布川 俊樹くんもギブソンの175で、しぶ〜いズージャを弾いていたが、翌年に会った時は楽器が335に変わっていて、すっかりジョン・スコになっておった。
ひろ子: 「名は体を表す」じゃなくて、「楽器は体を表す」なんですね。
五反田: ひろ子くんもなかなか渋いことを言うのぉ。本当に25歳なの?
つづく
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